茨城県かすみがうら市立下稲吉小学校、特別支援学級では「色と形」の学習方法を取り入れた授業づくりが行われています。
本記事では、担任の横田沙織(よこた・さおり)先生による国語科「大造じいさんとガン」の実践を通して、「色と形」が心情理解の授業でどのように子どもたちの学びを支えているのかを紹介します。
また、「色と形」を提案されている茨城大学の打越正貴先生と宮本浩紀先生に、専門的な視点から授業のポイントや活用の広がりについてお話しいただきました。

※このページに書いてある内容は、取材(2025年12月1日)時点のものです。

「色と形」とは?

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打越先生・宮本先生が提案する「色と形」は、子どもの気持ちや頭に浮かんだイメージを手がかりに、言葉による思考の深まり、広がりを支える学習方法です。「色と形」でイメージを表すことで、子どもは自分の考えが「見える」ようになります。何気なく塗った色から、自分でも気付いていなかった感情や価値観が浮かび上がることがあるそうです

横田先生の学級では、自立活動をはじめ、日常のさまざまな場面で「色と形」を活用しています。
今回の授業では物語の登場人物の心情を「色と形」で表しながら、物語の読み取りを深めます。

「色と形」を活用した授業の流れ

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この日の国語の授業で扱ったのは、「大造じいさんとガン」の中でも、大造じいさんが自信をもって仕掛けたうなぎのつりばりに、ガンが一羽もかからなかった場面です。
授業は、まず場面を全体で朗読し、その後、ワークシートを使って登場人物の心情を「色と形」で表すという流れで進められました。
ワークシートにはハートの枠が書かれており、その場面での大造じいさんやガンの気持ちを、自由に「色と形」で表現します。さらに、なぜその色や形を選んだのかを書く欄や、気持ちがポジティブ寄りかネガティブ寄りかを示す「気持ちの温度計」も設けられていました。
最後には、子どもたちはお互いの作品を鑑賞し、それぞれの考えを共有して授業を終えました。

実践のポイント①:「個別インタビュー」で子どもの思考を引き出す

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横田先生が特に大切にしているのが、「色と形」で表現した後の個別インタビューです。「どうしてこの色にしたの?」「このとき、どんな気持ちだったと思う?」と、一人ひとりに声をかけながら、子どもの考えを丁寧に引き出していきます。
ある児童は、大造じいさんの心情を表すハートの中に「?」マークをかいていました。横田先生が理由を尋ねると、「一羽もつかまえられないのがふしぎだと思ったから」という答えが返ってきました。一見ただ色を塗っているだけや小さな記号をかいているだけに見えても、子どもなりの思考の手がかりが隠れています
横田先生はこう話します。「全体で話を深めようとすると、話したくない子もいます。でも個別なら、自分のペースでゆっくり言葉が出てきます。こちらが少しヒントを出すことで、自分で気づく姿も見られます。」
「色と形」を手がかりに対話を重ねることで、子どもたちは少しずつ自分の気持ちを言葉にしていきます。

実践のポイント②:心情が読み取りやすい箇所を抜き出し、ワークシートを作成

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もう一つの工夫は、「どの場面を扱うか」を丁寧に選ぶことです。すべての場面の心情を考えることは子どもにとって負担になるため、心情が読み取りやすい場面を選んでワークシートとして提示しています。

横田先生は「ここが心情のポイントだと分かる場面を絞り、見通しよく提示することが大事です。内容を絞ることで、子どもたちは無理なく集中でき、『色と形』に取り組めます」と話します。また、「色と形」のワークシートでは、時系列で、1枚のシートに複数の場面を並べることで、登場人物の気持ちの変化を視覚的に捉えられるようにしています
横田先生は「子どもが一人で表現を組み立てるにはまだ課題もありますが、個別インタビューとワークシートの工夫を組み合わせることで、学びの深まりが見えてきます」と話しました。
完成した子どもたちの作品からは、心情の読み取りだけでなく、その子なりの感じ方や考え方が伝わってきました。「色と形」を通して、子どもたちに寄り添う授業が行われていることが感じられます。

「色と形」の開発者のお二人より

横田先生の授業について、印象的だった点はありますか?

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打越先生
個別インタビューとの組み合わせが非常に良いと感じました。「色と形」で表現したものを丁寧に引き出すことで、子どもたちの考えや感情が言葉として意識化されます。無意識にかいたものを意識化させることが、「色と形」の大切なポイントですが、横田先生のクラスではとても上手にできています。

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宮本先生
私はワークシートが印象的でした。文章が載った穴埋め式のワークシートにハートをかく方法もありますが、横田先生は場面ごとにハートが並ぶ形式にしています。そのおかげで、子どもたちは人物の心情の変化を視覚的に追いやすく、理解しやすくなっていると思います

色と形は国語以外の授業でも使えるのでしょうか?

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打越先生
もちろんです。国語だけでなく、音楽や理科、社会などほとんどの教科で応用できます。例えば音楽なら、柔らかい音を丸い形で、とがった音をごつごつした形で表現する、といった具合です。音の印象をそのまま「色と形」で表せるのが面白いところです。

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宮本先生
理科では、生命の誕生の単元で、いのちをろうそくの形で表したり、社会科では年号を色と形で表現させたりと、幅広く応用できます。重要なのは違いを引き出すことです。道徳や国語は心情理解が中心になりますが、必ずしもそれに限定されるわけではありません

初めて取り組む先生へのアドバイスはありますか?

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打越先生
ワークシートはなるべく小さめの紙にして、言葉は短く、テーマは子どもによって違いが出るものにすると、「色と形」の良さがより引き立ちます
。また、学期の初めと終わりに同じワークを行えば、子どもたちの成長や考え方の変化を振り返ることもできます。何より、学級や子どもの特性に合わせて柔軟に進めることが大事です。

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宮本先生
子どもたちに自由に考えさせる時間を意図的に作ることもおすすめです。個別インタビューだけでなく、友達の作品を見たり発表したりして、「どうしてそう考えたの?」と問いかけ合う活動を取り入れると、学び合いの力も育ちます。小さな工夫の積み重ねで、表現の幅はぐっと広がります。