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花や緑を通じて"誰もが花咲く社会"の実現を目指す「ローランズ」。現在は、障害のある人が働く花屋の運営事業や、障害者の雇用を考える企業の支援事業などを行っています。このローランズで、知的障害と診断された八十島孝生(やそしま・こうき)さんは、花屋のスタッフとして働いています(八十島孝生さんインタビュー)。八十島さんの上司である高橋麻美(たかはし・まみ)さん、福祉相談員の村上幸濃(むらかみ・ゆの)さん、八十島さんの3人に、障害がある人に対する支援や、働きやすい環境づくりのポイントについてお話を伺いました。

仕事のスキルや習熟度より、「安定して出社できること」を重視

八十島さんは2022年6月に「ローランズ」に入社されたそうですが、「ローランズ」の魅力や入社の決め手についてお聞かせください。

(八十島さん)
入社前は、とにかく店内がおしゃれで素敵なところだなという印象でした。お花屋さんに併設されているカフェには、たくさんのグリーンやドライフラワーが飾られていて、スタッフの皆さんも、とてもあたたかく優しい雰囲気だったように思います。面接や2日間の実習を経て、ここで働きたいと強く思いました。

八十島さんの面接は、現在の上司である高橋さんが担当されたとお聞きしています。面接時の八十島さんの印象や、採用の際に重視した点についてお聞かせください。

(高橋さん)
八十島さんを面接したときは、とても緊張していて「初々しいな」と思いました。一方で、緊張しつつもていねいな言葉遣いでハキハキとしゃべっていたことが印象に残っています。就労移行支援できちんとトレーニングしたのだろうなと想像できました。
ほかに、学校の出席率が高いところもいいなと思いました。私たちがメインで行っているフラワーギフトの配送やイベント装花といった仕事は、お客様からの注文を受けて行う仕事です。日時を細かく指定されることも多く、仕事に穴を開けることができません。ですから、なるべくきちんと出勤できる人が望ましいんですよね。もちろん、体調が悪いときや気が乗らないときもあると思いますが、そういった中でもなんとか折り合いをつけて、一定の安定感をもって勤務ができる人を採用したいと思っています。
面接を経て、八十島さんならしっかり出社してもらえるのではないかと思い、職場実習に進んでもらうことに決めました。また、就労移行支援で観葉植物や花壇のメンテナンスを経験していることや、何事にも「一生懸命な愛されキャラ」というのも採用の決め手になりました
仕事は入社してからでも覚えられますので、まずは「働くための土台となる素養があるか」を重視して採用しています

「成長を待つ姿勢」と「具体的なアドバイス」で活躍をサポート

実際に入社して、いかがですか?

(八十島さん)
僕は、上司や先輩の指示を1回で聞き取ることや、わからないことについて質問することが苦手です。なので 最初の頃はちょっと戸惑っていました。また、もともとマイペースな性格だということもあって、スピーディーに物事を進めることもあまり得意ではありません。焦ってしまってなかなか作業が進まないこともよくありました

高橋さん、村上さんは、八十島さんに対して、具体的にどのようなサポートをしているのでしょうか?

(高橋さん)
私は本人の様子をよく見て、適切なタイミングで声を掛けるようにしています。
困惑している様子が見られたら、「どうしたの?」と話しかけたり、「なにかわからないところがあるの?」と問いかけてみたりしますね。八十島さんは、複数のタスクをいっぺんにやろうとして混乱してしまうことがよくあるようだったので、焦らずひとつずつ進めたらよいと、アドバイスしたこともありました。サポートする側としては、とにかく本人をよく見ること、コミュニケーションを取ることが大切だと思っています
あとは、じっくり待つことも大事にしています。
八十島さんの行っているお花を配送するための段ボール箱の組み立てや観葉植物のラッピングなどの作業は、簡単そうに見えて実は複雑で難しいんです。お花の種類やサイズによって段ボール箱が異なっているので、お花やサイズごとに適切な箱を覚えなければなりません。八十島さんも最初は間違うことも多かったのですが、3か月かけてじっくり覚え、今ではまったく間違わなくなりました。
間違っても責めず、その間違いは次につながる間違いだということを仲間同士で共有するようにしています。そうやって、焦らずじっくり成長を待つように心掛けています。


(村上さん)
私は福祉相談員として八十島さんに関わっています。これまで、一緒に入社の手続きを進めたり、定期的に面談をして仕事に関する相談を受けたりしてきました。八十島さんから相談を受けたときに心掛けているのが、一緒に考えることと具体的にアドバイスをすることです。
以前、観葉植物のラッピングに時間がかかってしまうと相談を受けたときは、一緒に手順を分解して、「次の作業は30分を目標にしよう」と、細かく目標を立てていきました。このやり方は八十島さんにあっていたようで、作業のスピードがものすごく速くなりました。以前は2時間近くかかっていたラッピングが30分程度でできるようになったんです。

(八十島さん)
村上さんにラッピングについてのアドバイスをもらったときのことは、今でもよく覚えています。目標を立てたことで焦らなくなり、とても仕事がしやすくなりました
高橋さんと村上さんは、僕にとって安心して話せる、なんでも相談できる人です。高橋さん、村上さん、たくさんの方の支えがあって、今ではかなり速く、一通りの仕事ができるようになりました。ここまで成長できてとても嬉しいです。やりがいを感じながら仕事ができていると実感しています。

支援者と定期的に振り返りミーティングを行い、支援の質を上げる

現在、「ローランズ」では80名の方が働いているとお聞きしています。うち55名は障害のある方だそうですが、会社として、働きやすい環境づくりのために取り組んでいることはありますか?

(高橋さん)
どこの店舗でも意識しているのが、仕事の調整です
。私たちの店では、さまざまな障害のある方が働いています。日によっては、体調が整わず、元気に働けないときもあります。そういうときは、仲間がフォローしたり、休憩を多く入れたり、その日の体調に合った仕事をお願いしたりと工夫しています
それから、シンプルに「花と緑がある環境」というのも働きやすさにつながっているのではないかなと感じています。お花には、なんともいえない生命力や癒し効果があると思います。囲まれているだけで華やかな気持ちになったり、元気になったりと、パワーをもらえます。このような環境も、多くの従業員にとってプラスになっていると思います。

当事者同士が試行錯誤する時間をつくることが大切

多様な人材の活躍を支援する上で大切にしていることをお教えください。

(高橋さん)
私は、当事者同士が話す時間をしっかり取るようにしています。メンバーが悩んでいる姿を見るとつい助けたくなってしまうのですが、助けてばかりでは本人の成長につながりません。職場では現場で働くスタッフが、チームとしてどのように課題に向き合い、どのように解決するかを考えなければならないことが多くあります。そういう局面にしっかり向き合い、挑戦してほしいと思っています。当事者同士で話し合い、考え、課題を解決することが、より大きな成長や活躍につながると考えています

(村上さん)
私は、支援者は「その人をきちんと見ること」がなにより大切だと思っています。「何ができるのか」「どんなことが得意なのか」「苦手なことは何なのか」「どんな性格なのか」、そういったことをよく見極めることが、多様な人材の活躍につながるのではないかと思います
見極める際に気をつけているのが、将来の適性について考えることです。今はスキル的に難しいが経験を積めばできそうなことなど、長期的な展望や適性を考慮して、キャリアプランを考えるようにしています。
あとは障害特性を決めつけないことでしょうか。「こういう特性があるはずだ」「この障害だからこの困り事があるに違いない」と思いこまずに、その人自身に注目することが大事だと思っています

最後に八十島さんから、障害のある人を支える人へメッセージをお願いします。

(八十島さん)
一人ひとりの「働きたい」という気持ちを、大切にしてほしいです
。障害のある多くの人が、僕のように「働きたい」という気持ちを持っていると思います。僕は、ご褒美や時間などハッキリした目標を持つことで、できなかったことができるようになりました。楽しみがあるとがんばれるという人も多いと思うので、ご褒美のような「日々のルーティン」を大切にしていただけると嬉しいなと思います。
そして、できなかったときにも責めずに、「次がんばろうね」と励ましてもらいたいです。急にいろいろなことができるようになることはないかもしれないですが、少しずつ積み重ねれば変化につながるはず、と自分自身の経験を通して思っています

(取材・文:秋山 由香(Playce))
(撮影:厚地 健太郎)
※このページに書いてある内容は取材日(2023年12月13日)時点のものです。