特別な支援を必要とする子どもたちの学びを支えるため、教育現場では日々、さまざまな工夫が重ねられています。
なかでも、子どもの実態に合わせて作られた「自作教材」は、授業を支える大切な要素の一つです。
本記事では、「みんなの教材掲示板」に寄せられたご投稿の中から、国語科に関わる自作教材を3つご紹介します。また、東京学芸大学教職大学院の浅野あい子先生・増田謙太郎先生に、それぞれの教材についてポイントをお伺いしました。
※2026年1月6日~2月13日の募集に、ご投稿いただいた内容を記事にしています。
※「②特別な支援を必要とする子どものための国語科の自作教材」はこちらから
1.理解と想像をつなぐ物語ワークシート (小学校:知的障害特別支援学級の実践)
ここでは、小学校知的障害特別支援学級のA先生が活用している教材をご紹介します。
アーノルド・ローベル『お手紙』(光村図書 2年下)の授業の中で活用していた、2つのワークシートについて詳しくご紹介していただきました。
[ 実践者のA先生より ]
教材について
本実践では、アーノルド・ローベル『お手紙』(光村図書 2年下)を題材にしました。
この物語は、一度も手紙をもらったことがないことをさびしく思っているがまくんのために、かえるくんが手紙を書き、かたつむりくんに配達を頼むお話です。二人は手紙が届くのを待ちながら話をし、やがて4日後に手紙が届きます。友だちを思う気持ちや、手紙を待つ時間のやりとりが印象的に描かれています。
授業では、子どもたちが初めて『お手紙』を読んだときに抱く「どうして?」「なんで?」といった不思議(子どもが感じた疑問点)を学習の出発点とすることで、主体的に学びに向かいやすい学習場面を構成しています。こうした疑問をもとに学習を進めることで、主体的に学びに向かっていく様子が見られました。
この学びを支えるために、2種類のワークシートを組み合わせて活用しました。
活用の流れ
2時間目は、心情理解や表現(思考・判断・表現)に重点を置き、「想像を広げるワークシート」を使用しました。
まずは「内容理解を深めるワークシート」を活用し、物語の大まかな内容を捉えさせました。この活動では、文章の中の重要な語や文に目を向けながら考え、選び出すことを大切にしています。物語の流れを整理しておくことで、子どもたちがその後の学習にも安心して取り組めるようになると考えています。
次に、劇遊びを通して物語の場面を体験させました。登場人物になりきって動いたり話したりすることで、物語の出来事や登場人物の様子を具体的に捉えやすくなります。
劇遊びの体験をもとに、「想像を広げるワークシート」に取り組ませました。登場人物の行動や気持ちを考えることで、物語の理解をさらに深めていきます。表現することが難しい児童には、劇遊びの直後に教師がインタビュー形式で気持ちを聞き取り、教師が黒板に書いた内容を子どもが書き写せるようにすることで、無理なく学習に参加できるようにしています。
■ ここがポイント!
この教材は、書くことに苦手意識のある児童にも取り組みやすい内容になるように工夫しました。学習に参加しやすくするためには、書くことにこだわらずに参加できる工夫も必要ですが、「どうすれば書いてみようと思えるか」という前向きな動機づけの視点も重視しながら作成しました。
また、①②のどちらのワークシートも、最初の設問は心理的負担の少ない内容にしています。たとえば、「①内容理解を深めるワークシート」では、最初の設問を本文中から答えを抜き出して答える穴埋め形式にすることで、児童が安心して学習に向かえるようにしました。
増田先生・浅野先生からのコメント
-
-
増田先生
知的障害のある子どもが多いクラスでは、物語に登場する人物の「心情理解」はどうしても難しくなりがちです。そうした中で、「どうして?」「なぜ?」といった理由や根拠を問う形で考えさせている点はとても良い工夫だと思います。
また、特別支援教育の現場では、動作化(ごっこ遊び)の楽しさで活動が終わってしまうことも少なくありませんが、この実践ではそのあとにワークシートで考えを整理し、言葉で表すところまでつなげています。体験と言語化がきちんと結びついている、良い実践だと感じました。
-
-
浅野先生
増田先生のおっしゃる通り、体験と学習がうまく結びついていますね。そのうえで、国語科としてさらに理解を深めるポイントとして、「最後に本文に立ち返る」という視点があると思います。
子どもたちが劇遊びやワークシートで想像を広げたあとに、「その気持ちが分かる言葉は、教科書のどこに書いてあるかな」と、もう一度文章に戻って確かめてみる。そうした経験を重ねることで、子どもたちは「国語は当てずっぽうで答えるものではなく、文章の言葉を手がかりに読めばいいんだ」と気づいていきます。
特に行間を読むことが苦手な子どもにとって、本文の言葉を手掛かりに読み取る経験は、「自分にも読める」という安心感や自信につながると思います。
2.どうぶつえんのじゅういさんの一日(小学校:知的障害特別支援学級の実践)
ここでは、小学校知的障害特別支援学級のB先生が活用している教材をご紹介します。
増井光子『どうぶつ園のじゅうい』(光村図書 2年上)の授業の中で使用した、文章の内容を視覚的に整理するための教材(時系列を整理するためのホワイトボード教材)について詳しくご紹介していただきました。
[ 実践者のB先生より ]
教材について

本教材は、国語科の小集団学習で活用したもので、増井光子『どうぶつ園のじゅうい』(光村図書 2年上)の内容を視覚的に分かりやすく整理することを目的としています。
教科書の文章では、動物園の獣医が1日の中でどのような仕事をしているかが紹介されています。たとえば、動物の健康チェック、食事や運動の世話、怪我や病気の治療などを、時間帯ごとに順番に行っています。子どもたちは文章を読むことで、獣医の仕事の流れや動物のお世話の大切さを学ぶことができます。
授業では、文章を読むのが難しい児童でも理解しやすいように、子どもに対して大きめのホワイトボードを配付して活動を行いました。教材は、情報をできるだけシンプルに、「いつ(時間帯)」「どの動物か(イラストマグネット)」「どうしてその仕事をするか(理由)」の3つの要素に絞っています。要素を最小限にすることで、児童が内容を一目で理解できるよう工夫しました。
この教材は、文章を聞くことで興味を持つことはできても、自分で読むことや書き表すことが難しい児童に特におすすめです。
活用の流れ
まず、デジタル教科書で『どうぶつ園のじゅうい』の教科書の内容をスクリーンに映し出しながら、本文の読み聞かせを行いました。
児童への質問を通して、クラス全体で本文の内容を確認し、振り返りました。
児童が普段使っている「自分の一日の時間割」と内容を照らし合わせ、「自分が〇〇をしているころ、獣医さんは何をしているかな?」と問いかけました。これにより、児童自身の生活と文章の内容を結びつけ、想像しやすくします。
児童一人ひとりにボードとマグネットのセットを配付しました。児童は「時間帯」「動物」「理由」を自分で組み合わせてボードに配置し、文章の内容を整理していきます。(読むことが難しい児童に対しては、個別にサポートを行いました。)
児童の発言を促しながら、ボードに配置した内容が正確であるか、クラス全体で答え合わせを行います。
■ここがポイント!
この教材のポイントは、児童自身の身近な時間割と結びつけて考えられるようにしている点です。「朝」や「昼」といった時系列を具体的にイメージしにくいという児童の実態を踏まえ、普段書いている一日の時間割と照らし合わせて活用しました。自分の生活と関連付けることで、文章の内容をより具体的にイメージしやすくなります。
また、この活動では書くことにはあまり重点を置いていません。マグネットを動かして操作することで、児童が文章の内容理解に集中できるようにしました。
増田先生・浅野先生からのコメント
-
-
増田先生
長い文章を読むことが難しい知的障害のある子どもに対して、文章を短く整理し、イラストと結びつけながら内容をイメージできるように、とてもよく工夫されていると感じました。文章の内容を視覚的に捉えられるようにしている点が効果的ですね。
また、児童自身の「一日の時間割」と照らし合わせながら学習を進めている点も印象的でした。自分の生活と関連付けることで、学習内容を具体的に捉えやすくなり、主体的に考えるきっかけにもなっていると思います。
-
-
浅野先生
説明的な文章の場合は、まず文章の構造を捉えることが基本になります。今回の実践のように、ホワイトボードなどで文章の構造を整理して示すというのは、通常学級の低学年の子どもたちにとっても非常に有効な手立てだと思います。
そのうえで重要になるのが、先ほどの「1.理解と想像をつなぐ物語ワークシート 」の実践でもお話ししたように「本文に立ち返る」ということです。たとえば、「こういう内容だったね。じゃあ、このことは教科書のどこに詳しく書いてあるかな」「そのことについて書いてあるところを探してみよう」といった形で、整理した内容と実際の本文を行き来させていくことが重要です。
実際には、通常学級でもこうした読み方を十分に練習できていないことが多いと思います。だからこそ、低学年のうちから「どこに書いてあるのか」「言葉は何か」といったことを本文の中で確かめる読み方を経験させていくことが大切だと思います。
3.用言の活用「問題づくり」(中学校:自閉症・情緒障害特別支援学級の実践)
ここでは、中学校の文法学習でC先生が活用している教材をご紹介します。
用言(動詞・形容詞・形容動詞)の活用形や自動詞・他動詞の違いを学んだあとに取り組む、「自分が先生になって問題を作る」活動を通して、主体的な学びにつなげる教材です。実際の活用の様子について詳しくご紹介していただきました。
[ 実践者のC先生より ]
教材について
この教材は、用言(動詞・形容詞・形容動詞)の活用形および自動詞・他動詞の違いを学んだ生徒が、自ら「先生」となり、オリジナル問題を作ってクラスメイトに出題し合う教材です。
授業では教師が用意したテンプレートと教科書を活用することで、文法が苦手な生徒でも自ら問題づくりに挑戦できるよう工夫しました。
また、短文作成の内容には生徒の個性も表れるため、文そのものに関心を持ち、楽しみながら問題づくりや問題を解く活動に取り組めるようにしています。活用の流れ
用言の活用形を確認した後に、「問題づくり」の例を見て出題の仕方を理解できるようにしました。
準備ができたら、生徒はロイロノートに用意されたテンプレートをもとに、個人でオリジナルの文法問題を作成しました。
オリジナル問題の作成後、小集団で問題を出し合い、友だち同士で解き合う活動を行いました。
解き終わったら、出題した生徒自身が丸つけを行い、その後、面白かった問題や難しかった問題などをクラス全体で確認・共有しました。
最後に、時間に余裕があれば、教科書や問題集の文法問題に取り組むことで、学習内容の定着につなげました。
■ここがポイント!
いきなり教科書や問題集の文法問題を解いて答え合わせをして...という方法になると、抵抗感が強い生徒もいるので、「自分が教える側」という視点で、主体的に学習できる教材になるよう工夫しています。また、ICTとプリントを併用するなど、視覚支援や書くことの負担軽減、学び方の選択肢を増やすことも重視しています。
浅野先生・増田先生からのコメント
-
-
浅野先生
自分で問題を作り、友だちに解いてもらい、その正解を自分で確かめるという流れは、「自分でもできる」という感覚につながる良い活動だと思いました。中学生になると、「どうせできない」と感じて学習に向かいにくくなってしまう生徒もいますが、自分で作った問題を友だちが解いてくれる経験は、「できそうだ」という気持ちにつながりやすいと思います。
ただ「できるよ」と言葉で励ますだけではなく、実際にできたという経験があることが大切です。こうした経験の積み重ねが、自信をもって次の学習に向かう力につながるのだと思います。
-
-
増田先生
知的障害のない生徒を対象とする自閉症・情緒障害特別支援学級は、通常学級と同じ内容を学ぶことを前提としています。その中で、子どもが抵抗感を持たずに学習に入れるように教材が工夫されている点が良いと感じました。自閉症や情緒障害のある子どもは、「やりたいことはやるけれど、やりたくないことはやらない」といった姿がはっきりしていることもあります。だからこそ、余計な刺激を減らし、「文」「答え」といった形でシンプルに整理された、システマティックな教材にしているところが、この学級らしい工夫だと思いました。
また、最初から文法問題を解かせるのではなく、「先生になったつもりで」問題を作るという形にしている点も面白いと思います。解く側だと最初から「やらない」とシャットダウンしてしまう子もいますが、作る側に回ることで学習に入りやすくなることがあります。作問は教師にとっても子どもの理解の様子が見えやすい方法ですし、子どもの自尊心や意欲にもつながる活動だと感じました。
◆増田謙太郎先生プロフィール
東京学芸大学教職大学院教授。
特別支援教育や授業のユニバーサルデザイン等が専門。
著書に「学びのユニバーサルデザインUDLと個別最適な学び」(明治図書2022年)、「特別支援学級担任の仕事術100」(明治図書2021年)等がある。
.png)
◆浅野あい子先生プロフィール
東京学芸大学教職大学院教授。
学校経営・教育行政、教員のキャリア形成や校内OJTによる教員の資質能力向上等が専門。
都内の小・中学校において、校内授業研究・授業改善の講師を務めている。
.png)