特別な支援を必要とする子どもたちの学びを支えるため、教育現場では日々、さまざまな工夫が重ねられています。
なかでも、子どもの実態に合わせて作られた「自作教材」は、授業を支える大切な要素の一つです。
本記事では、「みんなの教材掲示板」に寄せられたご投稿の中から、国語科に関わる自作教材を3つご紹介します。また、東京学芸大学教職大学院の浅野あい子先生・増田謙太郎先生に、それぞれの教材についてポイントをお伺いしました。
※2026年1月6日〜2月13日の募集に、ご投稿いただいた内容を記事にしています。
※「①特別な支援を必要とする子どものための国語科の自作教材」はこちらから
1.「は」「を」「へ」をつかおう(小学校:知的障害特別支援学級の実践)
ここでは、小学校知的障害特別支援学級のD先生が活用している教材をご紹介します。
助詞の「は」「を」「へ」を使った定型文を、ゲーム感覚で楽しく作れるようになるための教材について、詳しくご紹介していただきました。
[ 実践者のD先生より ]
教材について

この教材は、「は」「を」「へ」を使った文を書けるようになることを目指し、定型文を使って助詞の基本的な使い方を学ぶ活動に使うために作成しました。
教材は、「だれだれは」「なになにを」「どこどこへ」に対応した3種類のカードとワークシートで構成されており、児童は箱からカードを引いて文を完成させます。
カードには、それぞれ以下のような内容が書かれています。
・「は」のカード:子どもの名前や、子どもに身近な人の名前
・「を」のカード:「何を」にあたる物のカード。写真に表示されているようなサッカーボールやクマのぬいぐるみなど
・「へ」のカード:「どこどこへ」にあたる、公園や学校などの場所の名前
カードを引くというゲーム感覚を取り入れることで、子どもが意欲的に活動に参加できるよう工夫しました。普段の会話の中では「は」「を」「へ」を使うこともあるものの、正しく読むことや書くことはまだ難しいと感じている児童におすすめの教材です。
活用の流れ
児童を指名し、前に出て箱の中からカードを引かせます。
黒板には、ワークシートと同じ配置・配色で枠と「もって」「いった」をあらかじめ書いておき、引いたカードをそれぞれの枠に貼っていきます。
カードを引いた児童に、完成した文を読ませます。
その後、全員でワークシートに取り組みます。慣れてきたら、箱の文字や板書のヒントは見えないようにして行います。教師は机間を回り、書けたところに丸をつけていきます。言葉を書き表すことに支援が必要な児童には、挙手などで呼ぶよう伝え、個別に支援します。
ワークシートに記入できた児童にも、書いた文を読ませます。
■ここがポイント!
箱の文字の色と、ワークシートの書き込む枠の色を同じにする(例:「は」はピンク色)ことで、視覚的な手がかりを作っています。将来的には、色のヒントがなくても書けるようになることを目指しています。
また、 児童が箱の中からカードを引く活動にすることで、学習への注目度を高めています。さらに、身近な物や場所の名前を書く練習にもなるよう、あえて濁音や拗音を含む言葉のカードも取り入れています。
浅野先生・増田先生からのコメント
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浅野先生
ゲーム感覚で取り組めるため、子どもたちが楽しく学習に入ることができる、良い活動だと思います。
助詞は、具体的な場面の中でどのように使うのかを理解していくことが大切だと思います。例えば、公園で遊んでいる場面の絵などを見せて、「この場面だったらどんな文が作れるかな」と考えさせると、子どもが自分の言葉を使って文を作る活動につながりますね。
最初はカードを使って文を作り、次の段階では自分の知っている言葉を用いて文を作るなど、単元として広げていくことで、より豊かな学びにつながるのではないでしょうか。
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増田先生
箱からカードを引くというゲーム性を取り入れていて、子どもが楽しく取り組める教材だと思いました。知的障害特別支援学級ではこうした活動はよく行われますが、意欲を引き出すという点でとても良い工夫ですね。ワークシートの枠とカードの色を対応させるなど、視覚的な手がかりを作っている点も分かりやすい支援だと感じました。
2.じぶんのことをおはなししよう(小学校:知的障害特別支援学級の実践)
ここでは、小学校知的障害特別支援学級のE先生が活用している教材をご紹介します。
自分のことについて皆の前で話す(スピーチをする)ために、簡単なメモを作って話しやすくするための定型文ワークシートについて、詳しくご紹介していただきました。
[ 実践者のE先生より ]
教材について
この教材は、自分のことについて、みんなの前で話す(スピーチをする)ための簡単なメモを作る定型文ワークシートです。短いフレーズの型を使ってメモを作ることで、話す内容を整理し、発表しやすくすることを目的として作成しました。
また、絵を取り入れることで、伝えたい内容を視覚的に選択できるように工夫しています。テーマを自分で選ぶことができるため、話しやすい話題から無理なく取り組むことができます。
いつも同じ話題になってしまう児童や、話し方が分からない児童も、フレーズの型を学ぶことで、自信を持って発表できるようになることをねらいとしています。

活用の流れ
「すきな」「こわい」「ほしい」など、さまざまな感情やテーマが描かれた絵カードから、自分が話しやすいテーマを1つ選ばせます。
ワークシートの空欄に言葉を入れるなど、型に沿って文を作らせます。
完成したメモをもとに、小集団で順番に発表し合います。その後、お互いに質疑応答をしたり、「初めて知ったこと」や「分かったこと」など、発表し合った感想の共有を行ったりします。
■ここがポイント!
学級の実態を踏まえ、絵を入れることで、伝えたい内容を視覚的に選べるようにしました。また、話のテーマの選択肢は、児童が話しやすいと思われるものを選んでいます。児童の実態に応じて、選択肢を増やしたり、減らしたり、内容を変えたりして活用すると良いと思います。
増田先生・浅野先生からのコメント
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増田先生
知的障害特別支援学級における「話すこと」の基本となるワークシートですね。自分の好きなものと、その理由を短い文で伝えるというシンプルな形ですが、「自分のことを相手に分かりやすく話す」というスピーチの基礎をしっかり押さえた実践だと思います。汎用性があるのではないでしょうか。
また、中央の絵の選択肢に「好き」だけでなく「怖い」や「欲しい」など、さまざまな語彙が用意されているところにも工夫を感じました。好きなものだけに絞ることもできる中で、あえて幅を持たせている点に、子どもたちの語彙を広げていきたいという意図がうかがえます。語彙を広げていくということは特別支援教育において大きな課題の一つですが、こうした教材を通して自然に語彙に触れられる点も、とても良いところだと思います。
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浅野先生
相手に分かりやすく伝えるための「短いフレーズの型」を学べる、とても良い実践ですね。自分のことを題材にして、人の前で理由を添えて話すという点では、自分のたからものをクラスの前で発表するといった活動でも使えそうですね。
「話す」という行為は、自分の言いたいことを言うだけではなく、相手に伝わるように工夫することが大切です。このワークシートは、「好きなんだ」「それはこういう理由なんだ」ということを、短い言葉でもきちんと伝える経験につながる点がとても良いと思います。また、語彙を広げるという点では、用意された選択肢を使うだけでなく、「自分の知っている言葉を入れてもいいよ」と空欄を設けるなど、子どもたちが持っている言葉を引き出す余白があると、さらに可能性が広がるかもしれません。友だちと話し合いながら考える活動などと組み合わせることで、子どもたちの言葉や表現がより豊かに広がっていく、そんな発展も期待できる実践だと感じました。
3.「文字のかくれんぼ」(小学校:自閉症・情緒障害特別支援学級、知的障害特別支援学級、通級指導教室 の実践)
ここでは、小学校の自閉症・情緒障害特別支援学級、知的障害特別支援学級、通級指導教室でF先生が活用している教材をご紹介します。
「へのへのもへじ」のような「文字絵」を題材にしたプリント教材について、詳しくご紹介していただきました。
[ 実践者のF先生より ]
教材について
「へのへのもへじ」のような「文字絵」を題材に、絵の中に書かれている文字を楽しみながら探すことで、文字の構造や特徴に気付き、判別する力を育てることをねらいとして作成した教材です。
絵の中に隠れている文字を探す過程を通して、文字を成り立たせている構成要素に着目する力が育ち、文字を正しく読んだり書いたりするための基礎的な力を養います。特に、漢字の習得につながる学習活動です。
漢字の読み書きに苦手さのある児童だけでなく、通常学級の児童が新出漢字を学ぶ際の覚えるポイントになるなど、さまざまなニーズに応えられる教材だと考えています。
活用の流れ
まず、活動内容の説明と確認を行い、文字絵の中に隠れている文字探しに挑戦することを児童に伝えます。
実際に、文字絵の中に隠れている文字を探す活動を行わせます。
(早く終わった子どもは、オリジナル文字絵作りに挑戦してもらいます。)
文字絵から文字を探すときのポイントや、気付いたことをクラス全体で共有します。
漢字を提示し、「『名』の中には、片仮名の『タ』と『ロ』があるよ!」といった漢字探しクイズにも応用して活用しています。
■ここがポイント!
児童が「探してみたい」「書いてみたい」と思えるような文字絵を用意することが、この教材のポイントです。ただし、そのような文字絵を作るのは意外と難しく、簡単すぎず、興味を引く図柄を考える必要があります。
私は、インターネットで見つけた画像を参考にしたり、イラストをもとに文字を使って文字絵にしてみたりするなど、いろいろ工夫しながら教材を作っています。教材づくりそのものを、教員自身も楽しみながら取り組める良いと思っています。
浅野先生・増田先生からのコメント
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浅野先生
文字探しは子どもたちが主体的に取り組めるだけでなく、文字に対する感覚も磨かれることが期待されるとても良い活動だと思います。文字探しから文字絵づくりへと、個々の学習状況に応じた発展的な活動が準備されている点も良いですね。
先生が準備した文字絵の文字探しをきっかけに、作った文字絵を互いに見せ合いながら文字探しを楽しむ、協働的な学びが期待されます。さらに、自分たちの身の回りに目を向け、友だちと力を合わせて文字探しに継続的に挑戦する子どもたちの姿が目に浮かびました。単元が終わった後も学びが継続し、それを教師が丁寧に価値付けることで、学習内容が日常生活と結び付いていることを子どもたちも実感できるのではないでしょうか。
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増田先生
特別支援学級や通級指導教室では「自立活動」の指導を行う必要があります。「自立活動」の視点で見ると、この実践は「環境の把握」の実践だといえます。つまり、文字は子どもの学習環境の一部をなすものだという考え方です。「読み書きに困難がある」というのは、子どもたちの学習環境が文字に依存しているからだともいえます。とはいえ、やはり文字が子どもたちの学習にとって必要なものである以上、文字の把握に特化した指導も必要になるのです。
国語科の視点だけだと、読み書きに困難がある子どもへの指導には限界を感じてしまいがちですが、自立活動の視点を取り入れることによって、子どもたちのニーズに応じた活動にすることができます。
◆増田謙太郎先生プロフィール
東京学芸大学教職大学院教授。
特別支援教育や授業のユニバーサルデザイン等が専門。
著書に「学びのユニバーサルデザインUDLと個別最適な学び」(明治図書2022年)、「特別支援学級担任の仕事術100」(明治図書2021年)等がある。
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◆浅野あい子先生プロフィール
東京学芸大学教職大学院教授。
学校経営・教育行政、教員のキャリア形成や校内OJTによる教員の資質能力向上等が専門。
都内の小・中学校において、校内授業研究・授業改善の講師を務めている。
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