特別支援学級の『教室』には、正解がありません。
子どもの実態や発達段階を考慮した上で、あえて刺激的な教室環境づくりを行うこともあるそうです。
この記事では、昭島市立富士見丘小学校の石川潤先生にご自身が実践している「子どもにとって刺激となるものを配置している教室」についてご紹介いただきました。実践例①、②と同様に、東京学芸大学教職大学院の増田謙太郎先生に解説していただきました。

※ご所属等については取材当時のものです。
※この記事は、2023年12月1日に実施したイベントの内容をまとめたものです。
※特別支援学級の教室環境づくり 実践例① 「安心して学習に取り組める小学校1年生の教室」は、こちら
※特別支援学級の教室環境づくり 実践例② 「子どもたちがより安心して過ごせる小学校2年生の教室」は、こちら

■石川潤先生プロフィール

昭島市立富士見丘小学校のさくら学級(自閉症・情緒障害学級)の学級主任・指導教諭
通級による指導に従事した経験も活かして、子どもたちが過ごしやすい環境づくりを実践している。

石川先生.png

■増田謙太郎先生プロフィール

東京学芸大学教職大学院准教授。
特別支援教育や授業のユニバーサルデザイン等が専門。
著書に「特別支援教育の視点で考える学級担任の仕事術100」(明治図書2023年)、「学びのユニバーサルデザインUDLと個別最適な学び」(明治図書2022年)、「特別支援学級担任の仕事術100」(明治図書2021年)等がある。

増田先生.png


【さくら学級 3年生の教室】

240301_classroom3.png

増田先生増田先生.png

石川先生、3年生の教室の前にあるこの棚はなんですか?

石川先生石川先生.png

子どもたちが自由に使用することのできる教材・教具やおもちゃを置いている棚です。

増田先生増田先生.png

この廊下の棚は、特徴的ですね。
特別支援学級では、絵本やおもちゃを隠す学校が多いので、これは「攻めた取り組み」だといえます。このような取り組みをクラスの入り口前で行っているのは、興味深いですね。
このような取り組みを行う背景や目的は何ですか?

廊下に設置した教材・教具やおもちゃが入った棚

classroom3_image_2.png

石川先生石川先生.png

この棚を設置した当初は、刺激に弱い子どもたちが棚の前から動けず、教室までたどり着けないということが多くありました。ですが、一定のルールや手続きを踏んだうえでしか使用できないということが分かると、子どもたちも慣れて執着することも減ってきたように思います。
あえてこのような刺激をオープンにして、「共用スペース=一般化した場所」を子どもたちに提供するようにしています

増田先生増田先生.png

学校はルールが必要な場ですよね。子ども目線でどういうルールが必要なのか、子ども自身に考えさせるこのような取り組みは非常によいと思います

さて、次に3年生の教室ですがポイントはどこでしょう?

石川先生石川先生.png

3年生の教室のポイントはあえて刺激となるものを配置していることです。
子どもたちに、さまざまな刺激に慣れてもらうために設置しています。

(左)習字道具等が入った棚
(右)黒板の上に設置した子どもたちの作品や掲示物

classroom3_image_1.png

増田先生増田先生.png

教室環境のユニバーサルデザインの観点からみると、教室の中にさまざまなものを配置することは望ましくないとされていますよね。
俯瞰図のイラストを見ても、教室内にたくさんのものが設置されていることが分かります。どうしてこのような環境にしているのですか?

石川先生石川先生.png

教室内には、今まで子どもたちが作ったもの、今読んでいる本、工作好きな子用の道具などを置いています。
「刺激的な環境の中で学習意欲を高める」という取り組みができるように、いろいろなものをわざと教室内に設置しています。ワクワクしたり、自然に次の展開を期待したりするような、意欲を喚起させる環境づくりを意識して、さまざまな子どもにかかわる刺激物を配置しています。

例えば、俯瞰図内の児童は、自分で作成した作品を授業中でも手に持っていますが、これも「刺激的な環境の中で学習する」ということの事例です。

増田先生増田先生.png

これは、自立活動の6区分27項目の「意欲に関すること」につながる内容ですね。学習に関する意欲をどう高めていくのかというのは、自閉症・情緒障害学級の課題の1つだと感じている先生方も多いのではないでしょうか。とても参考になる事例だと思います。

【まとめ:環境づくりのポイント】

石川先生石川先生.png

教室環境づくりでは、子どもやクラスの実態に沿うことが一番大事だと思います
配慮ばかりしてしまうと、配慮がないと生活できない子どもになってしまいますし、逆に秩序のない中で環境づくりをしても、収拾がつかなくなります。子どもの実態に則した環境が求められます。
さくら学級でも、実態や発達段階の状況に応じて、バランスを見ながら教室環境づくりをしていくことを今後も大事にしていきたいと思っています。

増田先生増田先生.png

「特別支援教育ではこうしなければならない」と縛られてしまっている先生も多いかと思いますが、そうではなく子どもの実態や子どもの成長のために何ができるのかということを大切にすべきですね。


実践例①は、こちら>>
「安心して学習に取り組める小学校1年生の教室」

実践例②は、こちら>>
「子どもたちがより安心して過ごせる小学校2年生の教室」