どんな子ども?(子どもの実態)

担任・担当の先生

作文や新聞づくりなど、授業で文章を「書く」場面になると意欲がなかなかもてないYさん。

教科書を読んだり、話し合ったりする活動や、体育や音楽、図工などでは積極的に学習に参加しているのですが、何か文章を書くことが必要になると、「どうせ、書けないから」と、初めからあきらめてしまいます

書いた成果物は教室に掲示したいところですが、Yさんのものだけない、ということがよくあります。

個別にYさんに「うまく書けなくてもいいからやってみよう」と声をかけても、あまり反応してくれません。

書くことへの苦手意識を克服し、文章を書く力を伸ばしたいのですが、どのようにしたらよいでしょうか。

子どもの思い

ぼくだって、みんなみたいにうまく書きたいんだけど...。
でも、いくらがんばっても、文章がうまく書けないんだ。
どうせ、書けないから、だんだんやる気がなくなってきて...。

なぜ?(要因として考えられること)

担任・担当の先生によると、Yさんは、「書く」こと以外の学習活動、例えば「読む」ことや「話す」こと、または運動や作業を伴う学習活動については意欲が低いわけではなく、積極的に参加しているようです。



Yさん本人は「いくらがんばっても、文章がうまく書けない」と言っています。ただやりたくないと言っているわけではなく、努力しても文章を書くことが難しくて、あきらめてしまっている子どものようです。つまり、もともと文章を書くことがうまくできないという困難さがあり、それに対する指導が十分になされてこなかったため、「書く」ことへの意欲の低下につながった可能性があります。



みんなと同じようにできなかったり、時間がかかって遅れてしまったりすると、子どもは自信をなくしてしまいがちです。本人の努力の問題で解決できるのであれば、叱咤激励して頑張らせる方法もあるかもしれません。しかし、努力して取り組んでも、期待通りの成果が出ないという経験が積み重なると、学習に対する意欲が低くなってしまいます。学習に対する意欲の低下が、やがては生活全体にも影響し、学校に足が向きにくくなることもあるかもしれません。そのようにならないためにも、子どもの困難さにしっかりと寄り添った指導が必要です。



学校では、自分の考えたことを表現する方法として、文章を「書く」という活動がとても多いです。そして、学年が上がるにつれて、書く文章の量、質、いずれも求められるようになります。また、書いたものは記録や作品として教室に掲示されることもよくあります。「掲示物がない」という状況は、たとえその子どもは気にしていなくても、授業参観に来た保護者などが気にしてしまうこともあります。

「書く」こととLD

文部科学省のホームページによると、LD(学習障害)とは「『聞く』『話す』『読む』『書く』『計算する』『推論する』といった学習に必要な基礎的な能力のうち、一つないし複数の特定の能力についてなかなか習得できなかったり、うまく発揮することができなかったりすることによって、学習上、様々な困難に直面している状態」と説明されています。
Yさんは、「書く」という特定の能力についてなかなか習得できなかったり、うまく発揮することができなかったりしているという状況に当たると考えられます。

(参考:学習障害(文部科学省)

通級による指導や個別指導でできること(特別支援の視点)

ポイント

通級による指導や個別指導では、その子どもの苦手な内容や、困難さにピンポイントで指導を行うことが可能です。Yさんの場合は、文章を「書く」ことの困難さを改善・克服する指導について考えていきましょう。

ポイントは、2つあります。一つは、スモールステップの指導を考えること。そして、もう一つは、今後、子どもが自分自身でも活用できる方法を見つけることです。

スモールステップの指導

作文や新聞づくりなど、長い文章を書くときは、何を書いたらよいか、どこから書き始めたらよいかがわからないということがあります。

いきなり書き始めるように指導するのではなく、「まずメモを作ってから、それを基に文章を書いていく」というようなスモールステップの指導を心がけてみましょう。指導をスモールステップにすることで、子どもたちにとって取り組みやすいものになり、細かく達成感を得ることもできるため、学びに対する意欲の向上につながります。

例)遠足に行ったときの作文

  1. 遠足で、「見たこと」「聞いたこと」「感じたこと」「したこと」など、何を書くかの視点を決めたメモを用意します。
  2. 一枚のメモには一つの文だけを書くようにします。そうすると、後で見たときにわかりやすくなりますし、たくさん書いた達成感も生まれます。
  3. メモを並び替えたり、つなげたりして、文章全体の構成を整えます。
  4. 並び替えたメモを基に、清書します。

今後、自分自身でも活用できる方法を見つける

子どもの特性によっては、努力してもある作業や行動がどうしてもできないこともあります。そのような場合には、できないことを補う方法を見つける指導を行っていきます

Yさんは、「話す」ことは問題なくできるようです。そうであれば、「話す」ことで文章を表す方法を身に付けていくことができます。例えば、音声入力のアプリケーションを使用するという方法が考えられるでしょう。これは、Yさんができる「話す」ということを使って、Yさんができない「書く」ことを補う方法であるといえます。

「文章を書く」というと、どうしても従来通り「鉛筆で書く」ということにとらわれがちです。しかし、「文章を書く」ことの本質は、「自分の思いや考えを表現すること」です。Yさんにとって、今、身に付けるべき力は、方法にとらわれず「自分の思いや考えを表現すること」ではないでしょうか

例)鉛筆で書くことを補う支援策

  • 音声入力のアプリケーションの使用
  • キーボード入力
  • タブレット型端末のフリック入力 など

さらに重要なのは、自分にはどういう支援があると助かるのかを子ども自身が理解していけるようにすることです。そうすることで、今後、自分自身でもそのような方法を活用できるようになっていくことが期待できます。

授業でできること(合理的配慮の視点)

ポイント

通級による指導や個別指導で学んだ方法を、授業でも生かしていけるように配慮するとよいでしょう。例えば、「鉛筆で書くことを補う支援策の例」で挙げた「音声入力のアプリケーションの使用」を国語などの授業で使用することを認めていくようにします。これは合理的配慮となります。

また、Yさんは、「どうせ、書けないから」と初めからあきらめてしまっている様子がみられます。この状況が改善しないようであれば、授業場面で、「書く」という行為そのものに対する不安を減らしていくための取り組みについても考えていくとよいでしょう。

安心して「書く」ことができるようにするための取り組み

例えば、授業の導入時に、復習を兼ねたミニクイズのような学習活動を設けて、簡単なことを「書く」場面を作ってみてはどうでしょうか。短時間でできるミニクイズであれば、どの授業の導入時でも行うことができます。

例)国語の授業の導入時にできる「漢字の筆順クイズ」

  1. 一人一枚、問題作成用の画用紙を配ります。
  2. 裏には、答えの漢字を大きく書いて、一画ごとに番号(筆順)を書くように指示します。
  3. 問題が出来上がったら、画用紙を友だちと交換して、画用紙の表に正しい筆順で漢字を書いてもらいます。
  4. 正しい筆順で書けたか、お互いにチェックします。

まずは、授業で「文字を書く」というところから始め、少しずつ「文章を書く」というところにスモールステップで進んでいけるとよいでしょう。簡単に楽しくできる学習活動を通して、成就感を味わうことで、少しずつ「書く」ことに安心感がもてるようにしていきます。

このミニクイズのような学習活動は、Yさんだけではなく、他の子どもにとっても、楽しくできる活動です。他の子どもの意欲も向上するでしょう。

最初は一人の子どものために行った支援でも、それがより多くの子どもにとっても有効になるものは、「授業のユニバーサルデザイン」化につながっていきます

特別支援学校 学習指導要領「自立活動」との関連

2 心理的な安定
(1)情緒の安定に関すること
(3)障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服する意欲に関すること

4 環境の把握
(2)感覚や認知の特性についての理解と対応に関すること

■監修・著
増田謙太郎(ますだ・けんたろう)
東京学芸大学教職大学院准教授