どんな子ども?(子どもの実態)

担任・担当の先生

ダンスの練習に取り組もうとしないMさんへの対応に悩んでいます

担任をしている学年では、運動会での表現運動として、最近の流行りの歌のダンスを学年全員で踊ることを計画しています。また、ただダンスを踊るだけではなく、隊形移動などして、みんなで踊っている姿を見栄えよくしていくことも考えています。

現在、このダンスの振り付けを覚えていけるように指導している真っ最中です。

練習は、子どもたちにもわかりやすいように、曲の流れに従って、順番に一つずつ取り組むようにしています。私自身、学生時代にダンス部に所属しており、そのように一つずつ振り付けを覚えることで、難しいダンスもできるようになった経験があります

しかし、Mさんは、このダンスの練習に積極的に取り組もうとしてくれません

Mさんは、運動の技能が高い子どもなので、ダンスができないというわけではありません。また、今回使用する曲は、Mさんが好きなアニメの曲です。

なぜ、Mさんが練習に取り組もうとしないのかわからずに、困ってしまっています。

子どもの思い

ダンスも、このダンスの曲も好きなんだけど、練習の時間が嫌いなんだ。
ぼくは最後まで踊りたいのに、順番に一つずつやるから、いつまでたっても先に進まなくて、なんかやる気がしないんだよね。
なんか、あの先生とはテンポが合わないんだよな

なぜ?(要因として考えられること)

このケースでは、教師の考えと、子どもの考えが、なんとなくかみ合っていない印象を受けます。一つの可能性として、「教師と子どもの認知処理スタイルのミスマッチ」が考えられます。その視点で、このケースを考えていきましょう。

「認知処理スタイル」というのは、簡単にいえば「ものごとの処理の仕方」です。「ものごとの処理の仕方」は、すべての人が同じではありません。教師と子どもの「ものごとの処理の仕方」が一致していれば問題はないのですが、教師と子どもが異なる「ものごとの処理の仕方」をしていることも往々にしてあります。

今回のケースでは、「順番に一つずつ積み上げて、最後に全体としてダンスが完成する」ことを目指している担任・担当の先生と、「順番に一つずつやっていくのにはついていけない」と感じているMさんとが、ミスマッチを起こしている可能性があります。

ここで覚えておきたいキーワードとして、「継次処理」と「同時処理」というものがあります。

「継次処理」とは、情報を「順番に一つずつ」時間的な順序によって処理していくことです。このケースの先生はおそらく、こちらの特性が強いと考えられます。

「同時処理」とは、情報の関連性に着目して「全体的に処理していく」ことです。全体像がわかると理解がしやすいのが「同時処理」型の特徴です。Mさんはおそらく、こちらの特性が強いと考えられます。

「継次処理」と「同時処理」という認知処理スタイルを踏まえて、この先生とMさんのケースを解決するためには、2つの方向性が考えられます。

一つは、Mさんが順序性のあるものに対して柔軟に対応できる力をつけていくことです。このためには、Mさんのためのオリジナルのプログラムが必要です。

そして、もう一つは、この先生自身が「異なる認知処理スタイルの子どもがいること」を念頭に置いた指導を考えていくことです。

このケースの先生の話からもその一端がうかがえるのですが、多くの教師は、「自分はこのやり方がやりやすいから、子どもたちもこのやり方がやりやすいはず」という感覚で指導を行っていることが多いです。つまり、自分の認知処理スタイルを基準として、授業を行っているといえます。自分とは異なる認知処理スタイルの子どもがいることを認識し、より多くの子どもたちに受け入れられやすい指導を目指していきましょう。

通級による指導や個別指導でできること(特別支援の視点)

ポイント

Mさんは、同時処理の特性が強く、継次処理の特性が弱いということが、比較的極端に出ていると考えられます。このように認知処理スタイルに極端なところがあると、日常生活や学校生活において支障をきたしてしまうこともあります。ダンスの練習以外にも、例えば、順序性が要求される「作文」などは、Mさんにとって苦手な活動だと考えられます。

そのようなときの指導のポイントは、「自分の強い特性を生かして、弱い特性を補う」ことです。

自分の強い特性を生かして、弱い特性を補う方法

「作文」のような継次処理的な活動であれば、例えば「関連を矢印でまとめたマップ」のように、Mさんの得意な「全体像を表す同時処理的な活動」を取り入れることによって、苦手な活動にも対応できるようになります。

例)全体像を確かめながら作文を書く

  1. 作文の題材(経験した出来事など)を、教師に説明する。


  2. 教師が一問一答形式で、そのときの状況や思ったことなどを、ホワイトボードなどに書き出す。
    その際には、出来事や、そのとき思ったことなどの関連を矢印でまとめていく。

  3. 子どもは、かかれたマップを見ながら、時系列順に文章をまとめていく。

各教科の授業でできること(合理的配慮の視点)

ポイント

このケースの先生自身は、継次処理の特性が強いタイプのようです。そのため「順番に一つずつやっていく」ことがこれまでの自らの経験上、もっとも「わかりやすい」と考えているのでしょう。

ここでは、この先生の認知処理スタイルを問題にしているのではありません。子どもたちがみんな、自分と同じような認知処理スタイルだと錯覚していることが問題だといえます。「子どもたちは自分と同じ認知処理スタイルだとは限らない」ということに自覚的であってほしいということです。

各教科の授業では、継次処理型と同時処理型の両方のタイプの子どもたちがいるということを、指導の前提にする必要があるでしょう。その上で、授業の進め方を工夫していくことが重要です。

同時処理型と継次処理型の両者に配慮したユニバーサルデザイン的な授業の進め方

同時処理型の子どものキーワードは「全体的に」です。一方、継次処理型の子どものキーワードは「順番に一つずつ」です。

授業では、まず「全体的に」活動の内容を示し(同時処理型の子どもへの配慮)、そのあとに「順番に一つずつ」活動を進めていく(継次処理型の子どもへの配慮)というような工夫をしてみましょう。このようにすることで、両者に対応することができます。

同時処理型、継次処理型の両者に対応した授業は、ユニバーサルデザイン的な授業ということができます。

例)ダンスの指導での工夫

  1. まず、授業の最初に「全体像」を見せる。(同時処理型の子どもへの配慮)
    ダンスの「全体像(プログラムの最初から最後まで)」を見せる。
    今日の練習ではどこからどこまでやるのか、練習の「全体像」を見せる。
  2. その後、「順番に一つずつ」練習をしていく。(継次処理型の子どもへの配慮)
    ダンスの振り付けや、隊形移動について「順番に一つずつ」練習していく。

特別支援学校 学習指導要領「自立活動」との関連

1 健康の保持
(4)障害の特性の理解と生活環境の調整に関すること

2 心理的な安定
(3)障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服する意欲に関すること

4 環境の把握
(5)認知や行動の手掛かりとなる概念の形成に関すること

参考

  • 藤田和弘 「継次処理」と「同時処理」学び方の2つのタイプ 認知処理スタイルを生かして得意な学び方を身につける 図書文化社 2019年
  • 喜多好一(編著) 通級指導教室 発達障害のある子への「自立活動」指導アイデア110 明治図書  2019年

■監修・著
増田謙太郎(ますだ・けんたろう)
東京学芸大学教職大学院准教授