どんな子ども?(子どもの実態)

担任・担当の先生

授業の場面で話すことができないAさん。

教室でみんなの前に出て、スピーチをしたり、調べたことをみんなの前に出て発表したりする場面で、固まって話せなくなってしまいます

グループでの話し合い活動でも、自分の意見を言うことがありません
周りの友だちからも「話さないキャラ」としてみられています。

しかし、家庭での様子を聞くと、家ではよく話すようですし、学校でも友だちと小さい声でなら話すことはあります。

授業において話をする場面を多く設定して、場慣れをさせようとしているのですが、やればやるほど本人の苦手意識が大きくなってしまっているように感じます。

子どもの思い

今日こそは話そう...と、思ってはいるのだけど、実際にその場面になると体がこわばってしまいます。
先生や友だちから「話して」と迫られるのも、いつも嫌な感じがします

なぜ?(要因として考えられること)

Aさんは、特定の場所や状況において話せなくなるようです。

このような状態の子どもを「選択性かん黙」とよぶことがあります。

話せない理由は、子どもによって様々ですが、よくあるのは、話すことに「不安」や「恐怖」を感じているということです。Aさんが、家庭などではほとんど支障なく会話ができるのに、授業では話せないというのは、緊張が高まることによる「不安」や「恐怖」があるものと思われます。

このような場合にまず重要なのは、「本人は話したくても話せない状態である」ということを理解することです。

そして、Aさんが「なんで自分はできないのだろう」「どうせ自分はこういうときに話せないから」といった、無力感を味わうことを積み重ねないようにすることが大切です。授業の場面でみんなの前で話せないということよりも、このような経験が積み重なり、生活や学習全般にわたる意欲の低下につながってしまうことに、大きなリスクがあると考えましょう。

したがって、みんなの前で話すことにこだわるのではなく、本人ができる方法で、他者とコミュニケーションをする場面を増やしたり、授業において他の子どもと同じ目標に取り組んだりすることができるようにしていきましょう。

選択性かん黙

選択性かん黙とは、話したり、聞いたりする言葉の能力には特に問題がないが、選択された特定の場面(例えば学校や、教師の前など)では、話すことができないという状態を指します。場面かん黙症といわれることもありますが、学校教育の分野では「選択性かん黙」といわれます。
もちろん、「固定電話では緊張して話せない」「レストランやコンビニエンスストアで、複数の注文をしなければならないときに話せない」という経験をする子どもは多くいますが、これらの子どもがすべて選択性かん黙となるわけではありません。「話す/話せない」という状態は、実に多様で、連続的(話すか話せないか、0か100かではない)だということを理解しておくとよいでしょう

通級による指導や個別指導でできること(特別支援の視点)

ポイント

通級による指導や個別指導では、Aさんが自分なりの方法で、他者とコミュニケーションをとれるような指導を行ってみましょう。最初から話すことだけにこだわらず、まずは、他者とコミュニケーションをする楽しさや意義に気付いていけるようにすることがポイントです。

筆談でのコミュニケーション

コミュニケーション手段の一つとして、筆談があります。最初は、教師と一対一の関係で行っていくとよいでしょう。本人の意思を確認しながら、徐々に友だちともできるようにしていくなどのステップアップが考えられます。

例)教師と一対一で、楽しかったことを伝え合う活動

  1. 最近あった「楽しかったこと」について、子どもに日記を書いてもらいます。
  2. 教師が、書かれた内容について、質問を書きます。
  3. 子どもに、その質問に対して答えを書いてもらいます。

子どもから話題がなかなか出てこない場合は、まずは「マインドマップで経験したことを伝える」という学習活動も有効です。

例)マインドマップで経験したことを伝え合う活動

  1. 最近経験したことについてテーマを決めます(例:遠足)。
  2. そのテーマについて、思いついたことをマインドマップのようにかいていきます(例:公園、お弁当、アスレチック、など)。
  3. 出てきたキーワードを基に、教師と筆談をします。

各教科の授業でできること(合理的配慮の視点)

ポイント

発表といえば、「みんなの前で話して発表する」ということが当たり前だと思っていませんか?

もちろん発表の場面で「話す」活動は必要です。しかし、「みんなの前で」にこだわる必要はないのです。

【よくあるNG評価】

「みんなの前でスピーチを行えなかったから、国語の成績の評価はできません。」

このような評価は、そもそもその教科の目標に整合していません。どの教科においても、「みんなの前で」発表することは目標になっていないからです。

したがって、子どもが自分に合った発表の方法を選べるようにするとよいでしょう。その子どもに合った発表の方法を認めることで、自分の考えを「話す」ことに自信がもてるようにすることがポイントです。

その子どもに合った発表方法を考える

自分に合った方法を子ども一人で見つけることは難しいです。ですので、その子どもにもできそうな方法を教師が考えて、その方法を含めてクラス全員が発表の方法を選択できるようにしてみてはどうでしょうか。

例)発表の方法を選択する

「今度の発表は、次のうち、どちらかの方法で行います。自分で好きな方法を選んでください。」


  • みんなの前で口頭で発表する
  • パソコンやタブレットに事前に録画したもので発表する

このように発表方法を具体的に提示した上で、Aさんだけではなくクラスの子ども全員が自分で発表方法を選択できるようにしてみましょう。クラス全員が選べるわけですから、「Aさんだけ」という特別扱いの配慮にはなりません

この配慮はもともとAさんのために考えたものですが、Aさん以外にも、本当はみんなの前で発表することに不安を抱えていた子どもがいたら、その子どもも助かる支援策となるでしょう。

また、このように発表の方法を複数から選択できることによって、子どもたちの発表の可能性は広がります。もしかしたら、「パソコンやタブレットに事前に録画したもので発表する」という方法によって学習へのモチベーションが上がる子どもや、自分なりの工夫を考える子どもも出てくるかもしれません。

最初は一人の子どものために行った支援でも、それがより多くの子どもにとっても有効になるものは、「授業のユニバーサルデザイン」化につながっていきます

特別支援学校 学習指導要領「自立活動」との関連

2 心理的な安定
(2)状況の理解と変化への対応に関すること

6 コミュニケーション
(4)コミュニケーション手段の選択と活用に関すること

参考

  • 高木潤野 学校における場面緘黙への対応 合理的配慮から支援計画作成まで 学苑社  2017年
  • らせんゆむ 私はかんもくガール しゃべりたいのにしゃべれない 場面緘黙症のなんかおかしな日常 合同出版 2015年

■監修・著
増田謙太郎(ますだ・けんたろう)
東京学芸大学教職大学院准教授