どんな子ども?(子どもの実態)
- 担任・担当の先生
-
思い通りにならないとキレてしまうIさん。
ドッジボールの試合では、自分のチームが負けそうになると、ルールを破ったり、ボールに当たったのに「当たってない!」と主張したりします。そして、チームが負けると大騒ぎします。また、クラスのお楽しみ会で何をして遊ぶかを決めるときなど、話し合いの場面で自分の意見が通らなくなりそうになると、大声で文句を言ったり、泣いて騒いだりすることがあります。
いずれのケースでも、落ち着いてからそのときのことを振り返れば、自分が悪かったことを認めたり、迷惑をかけた友だちに謝ったりすることはできます。
Iさんが落ち着いていられるようにする工夫はありますか。また、感情が高まってしまったときの対応策が知りたいです。
- 子どもの思い
負けそうになったり、自分の思うようにならなかったりすると、頭に血がのぼって、だんだん何も考えられなくなっちゃうんだ。頭の中が真っ白になるというか...。ルールを破ったり、騒いだりしたらいけないことはわかってるんだけど...。
なぜ?(要因として考えられること)
Iさんの場合は、勝ち負けのある試合やゲームで負けそうになったり、自分の主張が通らなくなったりする場面において課題がみられます。
このことを逆にとらえると、そうでないときにはルールを守ることができているということです。つまり、Iさんは、ルールそのものは十分に理解していると考えられます。十分にルールを理解していても、やはり「負けたくない」という気持ちが強くなってしまうと、ルールを守ることができないということのようです。
また、落ち着いて振り返ったときには謝ることができるということからも、「自分の行動が適切ではなかったこと」は十分わかっていると思われます。
そもそも、「試合の勝敗」や「話し合い」などは、実際にやってみるまでどのようになるかわからないものであり、その結果は前もって見通しがつくものではありません。
Iさんの場合、見通しがつかない物事に対して、意に反した結果になるとわかった瞬間に自分の気持ちを抑えられない衝動が強くなると考えられます。
このように適切な行動がとれないことが続くと、友だちとの関係が悪くなってしまいますし、集団行動を乱してしまうことにもつながりますので、適切な対応策を考えていきましょう。
Iさんのようにキレてしまう子どもや、友だちに対して暴力的な行動をとってしまう子どもに対しては、謝罪や「仲直り」の指導のみを行うケースがよくみられます。しかし、そのような対応は、怒鳴られたり暴力をふるわれたりした子どものほうが我慢を強いられたり、涙をのむしかなかったりするという状況を招きやすく、結果的にいじめの問題や学級経営の不安定さにつながってしまうことも考えられます。その場をおさめるだけの対応ではなく、周りの子どもにも配慮した対応策を考えていきましょう。
- キレやすい子どもとアンガーマネジメント
-
ゲームで負けたり、思い通りにいかなかったりすることがあると、大声を出したり、物を壊したり、暴れたり、ときには暴力をふるったりする子どもは、「キレやすい子」という扱いを受けやすいでしょう。そのような「怒り」の感情に対しては、「怒らないようにすること」を目指すのではなく、適切に「怒りの感情を処理すること」を目指すことが大切です。このことを、「アンガーマネジメント」といいます。
通級による指導や個別指導でできること(特別支援の視点)
ポイント
Iさんのように怒りの感情を抑えるのが苦手な子どもに対しては、「怒らないようにする方法」を指導するのではなく、適切に「怒りの感情を処理する方法」を一緒に考えていくことが大切です。
怒りの感情を処理する方法を探す
Iさんと一緒に、その子どもなりの「怒りの感情を処理する方法」を一緒に見つけていくようにしましょう。その際には、「怒ってしまったときは○○しよう」というような言葉だけの指導にならないように、ロールプレイによって具体的に指導することが重要です。
例)カードゲームでのロールプレイ
- カードゲームを行う前に、「負けてしまって、怒りが抑えられなくなったときどうするか?」を、子どもと事前に一緒に考えます。子ども自身で考えることが難しい場合は、いくつかの選択肢を提示して選べるようにします。
- カードで「悔しい」気持ちを伝える
- 「ちょっと頭を冷やしてきていいですか?」と断ってから別室に移動する
- 感触のいいボールを力いっぱい握る
- 実際に、カードゲームを行います。負けてしまったときには、最初に決めておいた方法を子ども自らが試すようにします。
- 最初に決めておいた方法を子どもがうまく実行することができたら、自身の行動を振り返り、言語化するようにします。
このように、「怒ってしまうこと」はいったん認めつつ、どのようにその「怒り」の感情を適切に処理するかを、カードゲームなどの具体的な場面で実践しながら学んでいけるようにします。
また、上記の例の③のように、振り返りをして、考えたことを言葉で表現する活動を取り入れることが大切です。これを行うことにより、「怒りの感情を適切に処理すること」が、ロールプレイの場面だけではなく、他の場面でも行えるようになることが期待できます。
授業でできること(合理的配慮の視点)
ポイント
Iさんの場合は、勝ち負けのある試合やゲームで負けそうになったり、自分の主張が通らなくなったりする場面において課題がみられます。
学校において「勝ち負けのある」場面や自分の主張が通らない場面とは、例えばどのような場面でしょうか。
体育のゲームの場面。休み時間に友だちと遊んでいる場面。給食でおかわりをしたい子ども同士でじゃんけんをする場面。クラスの出し物を決める場面...。このように、Iさんが思い通りにならなくてキレてしまう可能性のある場面は、いくつか具体的に考えることができると思います。
ですので、「Iさんはキレてしまいそうだな」という場面において、事前に「このようなときはどうするか」というふるまいを、周りの子どもたちを含めて一緒に考えるようにするとよいでしょう。
事前にふるまいを考える
例えば、体育の授業でドッジボールの試合を行う場面は、Iさんが、思い通りにならなくてキレてしまう可能性が高そうです。
ですので、想定される状況やトラブルについて、周りの子どもたちを含めて事前にふるまいを考える時間を取るようにします。
例)体育の授業でドッジボールの試合を行う前に考えること
- 「勝ったとき」「負けたとき」はどうやって表現したらよいか
- 微妙な判定のときはどうすればよいか
- もし、誰かがルールを破ってしまった場合はどうすればよいか
このように事前にふるまいを考えることで、見通しをもって学習活動に臨めるようになります。結果として、思い通りにならなくてキレてしまう場面を回避することにつながります。
大騒ぎしなくても自分の要求が通る経験を積み重ねることで、「思い通りにならなかったら大騒ぎする」というパターンから抜け出すことができるようになります。
このような「こうなったら、どうしたらよいか」を事前に考える指導は、上の例のように全体指導の場面で、クラス全員に対して行うことが効果的です。そうすることにより、この場面ではどのようなふるまいをすることがふさわしいのかを、クラスの全員で共有できます。
もちろん、必要に応じて、Iさんに対して個別に行うことも効果的です。
特別支援学校 学習指導要領「自立活動」との関連
2 心理的な安定
(1)情緒の安定に関すること
(2)状況の理解と変化への対応に関すること
3 人間関係の形成
(4)集団への参加の基礎に関すること
参考
- 原田謙 「キレる」はこころのSOS 発達障害の二次障害の理解から 星和書店 2019年
- 本田恵子 キレやすい子の理解と対応 学校でのアンガーマネジメント・プログラム ほんの森出版 2002年
- 安藤俊介 あなたのまわりの怒っている人図鑑 事例に学ぶアンガーマネジメント 飛鳥新社 2020年
■監修・著
増田謙太郎(ますだ・けんたろう)
東京学芸大学教職大学院准教授