どんな子ども?(子どもの実態)

担任・担当の先生

危険な行動をしてしまいがちなSさん。

教室の窓から身を乗り出そうとすることがあり、その度に注意して止めさせるのですが、また忘れたころに同じような行動をすることがあります。

授業中、理科の実験で、ガスコンロに鉛筆を近づけていたこともありました。
また、家庭科の授業で針を使っている際にその針を人に向けるなど、友だちに対して危険な行動をすることもみられます。

口頭で注意したり、たまには厳しく指導したりすることもあるのですが、繰り返し同じことをするので、Sさんをいつも注意するばかりになってしまいます。そのような対応がよくないことだとわかってはいるのですが、いつか大きな事故が起こるのではないかとひやひやしています。危険な行動をやめさせることのできる効果的な注意の仕方や指導はないでしょうか。

子どもの思い

危険なことを、やっちゃいけないことはわかっています
でも、急にどうしてもやってみたくなっちゃうんです。
叱られてもまた繰り返しちゃうのは、なぜだろう...?

なぜ?(要因として考えられること)

Sさんのエピソードにあった「教室の窓から身を乗り出す」「ガスコンロで鉛筆を燃やそうとする」「友だちに針を向ける」といった行動は、危険な行動であり、学校ではこのような危険な行動に対しては、毅然と対応することが求められます。しかし、注意されても、そのような危険な行動を繰り返してしまう子どもがいます。



Sさんの場合は、本人は「やってはいけないことは十分にわかっている」というところがポイントです。



Sさんは「わざとやっているようで、わざとやっているわけではない」という見取りをしてみましょう。つまり「Sさんは、衝動的にやってしまっている」と考えるということです。



Sさんのように、衝動性のある子どもは、衝動の抑制が難しかったり、自己の状態の分析や理解が難しかったりするため、同じ失敗を繰り返したり、目的に沿って行動を調整することが苦手だったりすることがあります。



このような子どもに対しては、行動の危険性についていくら指導しても、効果が出にくいといえます。それどころか、注意しても同じ行動が繰り返されると、教師は注意ばかりすることになり、子どもは注意されるばかりになってしまいます。これでは良好なコミュニケーションをとっていくことがいずれ難しくなりますし、注意されてばかりでは子どもの自己肯定感も下がってしまいます



子どもの自己肯定感を下げることなく、危険な行動をやめさせる対応策や指導を考えていきましょう。

衝動性とADHD

文部科学省ホームページによると、ADHD(注意欠陥多動性障害)とは「おおよそ、身の回りの特定のものに意識を集中させる脳の働きである注意力に様々な問題があり、又は衝動的で落ち着きのない行動により、生活上、様々な困難に直結している状態」と説明されています。
Sさんの場合は、この中の「衝動的で落ち着きのない行動」の特徴がみられていると考えられます。衝動性のある子どもは、思いついたことを止めにくかったり、刺激に対して反応しやすかったりして、自分の衝動を抑えることができずに、すぐ行動してしまうことがあります。 (参考:注意欠陥多動性障害(文部科学省)

通級による指導や個別指導でできること(特別支援の視点)

ポイント

Sさんは、「やってはいけないことは十分にわかっている」ので、安全性や危険性の面からアプローチするのではなく、衝動的な行動をどうやって自分でコントロールしていくかというところに焦点を当てた指導を考えてみましょう。

ポイントは、「コーチング」の手法を取り入れてみることです。

コーチングの手法を取り入れる

Sさんのような子どもには、「コーチング」の手法が有効だといわれています。「コーチング」ですので、指示や指導というスタンスではなく、教師はあくまでも子どもが考えやすくなるための提案を行ったり、うまくいった行動について振り返りの場面を設定したりしてみましょう。

例えば、次のようなコーチングを行ってみたらどうでしょうか。

教師は、Sさんに「問いかける」ことを重ねていきます。問いかけて、Sさんから出てきた反応や言葉を生かして、本人自らが行動を改善できるように支えていきます

こうすることで、Sさん自身が考えたり、気付いたり、自ら行動を起こしたりするような効果が期待できます。

例)コーチングの手法を用いて対話をしていく方法

  1. 「3か月後、どんな自分になっていたいですか?」と問いかける。
    自分の衝動的な行動に対して、教師から注意されていることなどを基に、子ども自身が考えられるようにする。


  2. 具体的な場面について、子どもはそのときの自分の状態に点数を付ける(最良の状態が10、最悪の状態が0)。教師はその点数について子どもに問いかける。
    「今日の体育のときは何点ですか?」
    「どうして、その点数なのですか?」


  3. うまくいっているときのことを子どもに問いかける。
    「最近うまくいったことには、どんなことがありましたか?」
    「ほんとにいつも注意されてばかりですか?」


  4. うまくいくことが増えるように子どもに提案する。
    「うまくいっていることを続けてみたらどうですか?」
    「どうしてうまくいったのか、自分で自分を観察してみたらどうですか?」


  5. 声かけの数日後に、フィードバック(振り返り)を行う。子どもに変化があったら、そのことについて、さらに問いかけるようにする。

各教科の授業でできること(合理的配慮の視点)

ポイント

集団での指導において、いつ起こるかわからない危険な行動だけに目を光らせている、ということは現実的には難しいでしょう。教師の対応にも限界があります。

各教科の授業でできることのポイントは、危険な行動が起こらないように未然に防止すること、そして注意や叱責の少ない指導を心がけることです。

危険な行動を未然に防止する

シンプルな方法としては、Sさんが学習活動を行う場所を工夫することです。

例えば、教師が確実に様子を把握できる場所で活動できるようにしたり、個別の対応ができるような作業スペースを設けたりしてみてはどうでしょうか。このようにすることで、授業中の危険な行動を未然に防ぐことにつながります。

各教科の学習指導要領解説にも、下記のような具体的な対応策が示されていますので、参考にしてみてはどうでしょうか。

【小学校学習指導要領解説 理科編】

燃焼実験のように、危険を伴う学習活動において、危険に気付きにくい場合には、教師が確実に様子を把握できる場所で活動できるようにするなどの配慮が考えられる。

【小学校学習指導要領解説 家庭編】

周囲の状況に気が散りやすく、包丁、アイロン、ミシンなどの用具を安全に使用することが難しい場合には、手元に集中して安全に作業に取り組めるよう、個別の対応ができるような作業スペースや作業時間を確保することなどが考えられる。

注意や叱責を少なくする

注意や叱責が多くなると、子どもの自己肯定感が低くなってしまう危険性があります。また、注意や叱責によって授業が中断されることが多くなると、他の子どもたちの集中力もそがれ、教室全体が落ち着かなくなってしまい、授業も進まなくなってしまいます。

注意や叱責を少なくし、衝動性のある子どもが危険な行動を起こさないようにする声かけを心がけましょう。

どの授業でもできることは、活動の初めに「目的」を明確に示すことです。目的を明確に示すことで、子どもにとっては「この活動で何を行えばよいか」がわかりやすくなります。逆の言い方をすれば、「この活動で何を行えばよいか」が明確になっていない授業では、衝動性のある子どもは、いろいろなことに気が散りやすくなるということです。その結果として、子どもが危険な行動をして、事故が起こりやすくなってしまうともいえます。

例えば、理科の実験では、下記のようなことを授業の初めに提示します。

  • 何の目的でこの実験を行うのか
  • 何の目的でその器具を使うのか

このように目的を示す際には、「視覚的に表す」ことが有効です。例えば、黒板に文字で書いて示したり、ワークシートにわかりやすく示したりするとよいでしょう。

また、机間指導の際に「今日の授業の目的は何だったっけ?」と、Sさんに個別に声をかけて思い出させたり、考えさせたりすることも有効です。

特別支援学校 学習指導要領「自立活動」との関連

2 心理的な安定
(3)障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服する意欲に関すること

4 環境の把握
(4)感覚を総合的に活用した周囲の状況についての把握と状況に応じた行動に関すること

参考

  • 熊谷恵子(監修)、安藤瑞穂(著) ADHD のコーチング -実行機能へのアプローチ- 図書文化社 2019年

■監修・著
増田謙太郎(ますだ・けんたろう)
東京学芸大学教職大学院准教授