Point
  • 個別の教育支援計画と個別の指導計画の役割
  • 2つの計画の違いと関係性
  • 計画を作成するときに心がけること

2003年、文部科学省は、「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」で、障害のある幼児児童生徒の多様なニーズに適切に対応する仕組みの一つとして、「個別の教育支援計画」というツールの作成を提示しました。
また、小学校・中学校・高等学校の学習指導要領では、特別支援学級や通級による指導において、「個別の教育支援計画」や「個別の指導計画」を作成することが義務付けられています

ここでは、2つの計画の役割や目的について、説明していきます。

個別の教育支援計画とは?

個別の教育支援計画とは、障害のある児童生徒一人ひとりのニーズを正確に把握し、教育の視点から適切に対応していくという考えの下、乳幼児期から学校卒業後まで一貫して的確な教育的支援を行うために作成される計画です(※個別の支援計画と個別の教育支援計画は同義であり、教育機関が中心になって作成する際は個別の教育支援計画といいます)。

障害のある児童生徒の能力や可能性を最大限に伸ばしていくためには、一人ひとりの障害の程度や状態について専門的な判断が必要になります。
さらに、個々の障害特性に基づいた適切な指導を行うためには、子どもの生活年齢(ライフステージ)に応じて、教育、心理、医療、福祉、労働、保護者など、様々な関係者との連携が必要になります。

そこで、障害のある子どもに関わる様々な関係者が、子どもの障害の状態などに関わる情報を共有し、教育的支援の目標や内容、実施方法を明確にするためのツールとして、個別の教育支援計画が重要な役割を果たすことになります。

個別の教育支援計画は、児童生徒が所属する教育機関が中心となって作成するものです。作成に当たっては、「特別な教育的ニーズの内容」「教育的支援の目標と内容及び方法」「教育的支援を行う者・機関」を盛り込み、関係機関との連携を取りながら、保護者の意見も十分に聞きながら作成していく必要があります。

そして、長期的な視点に立った計画を作成するため、支援の目標はおよそ3年程度を想定し、支援の内容などに変更があった場合には、その都度見直しや修正を行うようにしましょう。
また、個別の教育支援計画には、保護者を含め多くの関係者が関わることから、作成した内容などをあらためて保護者に確認してもらうなど、個人情報の取り扱いには十分な配慮が必要となります。

個別の指導計画

個別の指導計画とは、障害のある児童生徒の実態に応じて適切な指導を行うために、個別の教育支援計画や学習指導要領などを踏まえ、児童生徒一人ひとりの教育的ニーズに応じて、指導目標や指導内容などをより具体的に明記した指導計画です。

例えば、国語科の個別の指導計画を考える際は、学習指導要領の国語科の内容を踏まえ、国語科の年間目標、単元ごとのねらい、授業でのねらいなどを、個別の教育支援計画を念頭に、障害の程度や実態が異なる児童生徒に対し一人ひとりに作成する指導計画と考えられます。

個別の指導計画の作成には、次のような役割が期待されています。

  1. 一人ひとりの障害の状態に応じたきめ細かな指導が行える。
  2. 目標や指導内容、児童生徒の様子などについて、関係者が情報を共有化できる。
  3. 校内の教職員の共通理解や校内体制づくりに役立つ。
  4. 個別的な指導だけでなく、集団の中での個別的な配慮・支援についても検討できる。
  5. 児童生徒自身にとっても目指す姿が明確になる。
  6. 指導を定期的に評価することにより、より適切な指導への改善につながる。
  7. 引継ぎの資料となり、一貫性のある指導ができる。

個別の指導計画は、具体的な書式が決まっているわけではありませんが、以下の内容が、A4版2~3枚程度になっていると、記入者の負担は少なく、指導経過の中での児童生徒の変容に合わせて随時修正がしていけるでしょう。

  • 教育的ニーズの把握のための「実態把握」
  • 目標や指導内容、手立て、方法などを記した「指導計画」
  • 指導実践の「記録」と「評価」

なお、個別の指導計画については、県、市区町村の教育委員会が独自の様式を定めている場合がありますので、まずはそちらを確認するようにしてください。
特別な定めがない場合は、文部科学省(2004)の「小・中学校におけるLD(学習障害)・ADHD(注意欠陥/多動性障害),高機能自閉症の児童生徒への教育支援体制の整備のためのガイドライン(試案)」に、資料として個別の指導計画の様式例が目的別にいくつか示されているので、参考にしてみてください。

参考:「個別の指導計画の様式例」(文部科学省)

個別の教育支援計画と個別の指導計画の違い

個別の教育支援計画は、「障害のある児童生徒一人ひとりに適切な支援を行う」という視点で、教育、心理、医療、福祉、労働、保護者などの関係機関・関係者が、子どもの生涯にわたって連携協力して支援するためのツールで、長期的な視点で作成された計画となります。

これに対し、個別の指導計画は、個々の児童生徒の実態に応じて適切な指導を行うために学校で作成されるもので、教育課程を具体化し、一人ひとりの指導目標・内容・方法を明確にして、きめ細かに指導するために作成するものです。

両者は次元(レベル)の違うものです。トータルプランとしての個別の教育支援計画の作成を踏まえて、学校における指導や支援のための個別の指導計画が作成されます。

計画の作成にあたって

いずれの計画も作成に当たっては、担任や担当者が一人で考えるのではなく、学年会や他の教師、前任者から情報を得たり、保護者から家庭生活の様子を聞いたり、また、専門機関から諸検査の結果などの資料を適切に得たりしながら、子どもたちの実態把握を丁寧に行い、重点課題や優先内容、実施方法についてよく協議して作成してください。

そして、個別の教育支援計画も個別の指導計画も、大切なことは、P-D-C-Aサイクル(Plan Do Check Action)で策定していくことです。
計画(Plan)を立てて実行(Do)し、評価(Check)を行い再実行(Action)するP-D-C-Aサイクルは、個別の教育支援計画や個別の指導計画の基本的な考え方です。

そのためには、まずは児童生徒一人ひとりを意識的に観察することが大切です。対象の児童生徒について観察する視点と記録を積み重ねることが、「変化」や「変容」を知る手がかりになります、最初は他の児童生徒との違いからでもよいでしょう。対象の児童生徒の一日、一週間、一か月といった時間の経過の中で変化に気付くことも重要です。

そして、本人が無意識に発しているかもしれないSOSや、困り感を理解しながら、観察する視点を焦点化して、エピソード記録やピンポイント記録を積み重ね、分析していくことで、記録から適切な対応方法も得ることができるようになります。

■監修・著
廣瀬由美子(ひろせ・ゆみこ)
元 明星大学教育学部教授