- Pointこの記事のポイント
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- 自閉症,情緒障害の一般的な特徴
- 自閉症・情緒障害特別支援学級の対象者
- 基本的な指導内容
特別支援学級は、障害種ごとの学級として編制されますが、ここではその中の一つである「自閉症・情緒障害特別支援学級」について、説明していきます。
その他の特別支援学級の区分や、対象となる障害の程度については、「障害種別の特別支援学級」を参照してください。
自閉症、情緒障害の一般的な特徴
自閉症とは、以下のような特徴がある発達の障害で、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定されています。
- 他人との社会的関係の形成の困難さ
- 言葉の発達の遅れ
- 興味や関心が狭く特定のものにこだわる
その特徴は、3歳くらいまでに現れることが多いですが、小学生年代まで問題が顕在しないこともあります。
情緒障害とは、状況に合わない感情・気分が持続し、不適切な行動が引き起こされ、それらを自分の意思ではコントロールできないことが継続し、学校生活や社会生活に適応できなくなる状態をいいます。
選択性かん黙(話す場所を本人が選択)や神経性習癖(チックなど)、長期間の不登校といった、障害というより状態像を示すことも多いです。
そして、自閉症も情緒障害も、特別な支援や配慮が必要とされる状態とされています。
情緒障害教育と自閉症
自閉症・情緒障害特別支援学級の前身は情緒障害特殊学級です。
そして、日本で初めて自閉症の児童を対象にした学級は、1969(昭和44)年10月に開設した東京都杉並区立堀之内小学校内の堀之内学級(情緒障害特殊学級)でした。
情緒障害教育の歴史をたどると、自閉症の原因を保護者の育て方,関わり方の問題として捉えた時期がありました。今では、自閉症の原因は脳の中枢神経系の問題であると理解されていますが、人に関心を示さない、すぐに癇癪を起こす、ハンドフラッピングやロッキングといった独特の動きなどから、保護者との関係によって情緒的に問題が起きていると考えられていたのです。
しかし、文部科学省(2009)は、自閉症と情緒障害は原因も状態も異なることから、情緒障害特殊学級を自閉症・情緒障害特別支援学級として名称を変更しました。
なお、現在、自閉症の診断基準の一つであるDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版:米国精神医学会)では、教育現場で使われている高機能自閉症など(知的障害のない自閉症やアスペルガー障害)は、自閉症スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害としてASDに統一しています。
自閉症・情緒障害特別支援学級の対象者とその特性
自閉症・情緒障害特別支援学級の対象について、文部科学省(2021)の「障害のある子供の教育支援の手引」には、以下のように記されています。
- 自閉症・情緒障害者
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- 自閉症又はそれに類するもので,他人との意思疎通及び対人関係の形成が困難である程度のもの
- 主として心理的な要因による選択性かん黙等があるもので,社会生活への適応が困難である程度のもの
自閉症の児童生徒は、言葉の発達の遅れや特異な使用が見られたり、身振り手振りや相手の表情といった、言語以外の情報から相手を理解したりすることを苦手としています。
こうした特性から、他人との意思疎通や、他人の気持ちを理解することに困難さを抱えており、友達関係や信頼関係を形作ることが、一般にその年齢に求められる程度に至っていないことが多いです。
また、決まりを守って行動する、他人と関わりながら生活を送ることなどが、一般にその年齢段階に求められる程度に至っていないことから,社会生活への適応に困難さを抱えています。
情緒障害の児童生徒は、選択性かん黙などのために通常の学級での学習では効果を上げることが困難であり、集団生活への参加や社会的適応のための特別な指導を行う必要があります。
しかし、選択性かん黙や、不登校などの状態などの的確な把握や原因の究明などはかなり困難な場合があるので、教育内容及び指導方法を決定する際は慎重に進める必要があります。
自閉症・情緒障害特別支援学級の基本的な指導内容
文部科学省(2013)「教育支援資料」では、小・中学校における自閉症・情緒障害特別支援学級の教育目標として、人との関わりを円滑にし、生活する力を育てることに重点を置いています。
同資料では教育内容例も示していますが、それをまとめて以下に図示します。
自閉症者においては、特に知的障害の有無が指導内容にも大きく関係しますが、基本的には「日常生活スキルの獲得」「運動や感覚機能の向上」「言語能力の向上」「対人関係の獲得」などを目指します。
また、情緒障害者においては、例えば長期化した不登校の場合は昼夜逆転しているケースや不登校状態で学習空白なども生まれていることから、「基本的な生活習慣の確立」「コミュニケーション能力の向上」「基礎学力の向上」などを目指すことになります。
知的発達に遅れのない自閉症者の教科指導例
知的発達に遅れのない自閉症の児童生徒であっても、特別支援学級での教科指導においては、特に国語の指導に工夫や丁寧な配慮が必要になります。
国語では、物語文を教材にして中心人物の心情の変化などを読み取る学習がありますが、自閉症の児童生徒は、直接的に記述されている感情語以外、いわゆる行間や心象から人物の心情変化を理解することが難しいです。
他人との適切な意思疎通には、文脈や状況を総合的にかつ瞬時に判断して会話をしていく必要があります。会話に比喩や例えがあった場合は、その意図を理解できずに、また字義通りの解釈をすることで会話を継続することも難しくなります。
さらに、コミュニケーションには身振りや手振りから理解することや、相手の表情から心情を読み取る力も必要になりますが、自閉症の児童生徒は言語以外の情報から相手を理解することを苦手としています。
以下の図は、自閉症・情緒障害特別支援学級に在籍している高機能自閉症の児童が、国語の学習「走れ」(東京書籍2009年度)において、主人公の心情や気持ちの変化を理解するために必要となる手がかり(下線部分)を読み取れなかった個所になります。
例えば、「ん・・・・たぶんね。」といった点線部分は、どんな感情が込められているのか、対象児童は全くと言ってもいいくらい理解ができていませんでした。
そこで、特別支援学級の担任は、前後の文章と点線の部分を対比させて、点線に様々な感情語を入れながら適切な感情を理解させる指導を行っていました。
このように、自閉症の特性が理解を阻む背景になることを教師が知った上で、丁寧な教材の作成や体験を取り入れた指導などを考える必要があります。
また、知的発達に遅れのない自閉症の児童生徒において、特に交流及び共同学習の内容を音楽や体育などにしがちですが、音に関する過敏性の問題や集団行動の苦手さを想定すると、交流及び共同学習の教科については障害特性を加味して設定することが大切です。
■監修・著
廣瀬由美子(ひろせ・ゆみこ)
元 明星大学教育学部教授