- Pointこの記事のポイント
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- 校内委員会の役割
- 校内委員会で、子どもの状態を共通理解する
- 校内委員会とケース会議の違い
学校教員が、特別な教育的ニーズがある子どもに気付き、支援していくためには、一部の教員に任せるのではなく、学校全体で支援していく仕組みを整えることが必要です。ここでは、その校内支援体制の中心となる校内委員会について見ていきましょう。
校内委員会とは
特別支援教育に関する校内委員会には、以下の役割があるとされています。
- 児童等の障害による学習上又は生活上の困難の状態及び教育的ニーズの把握。
- 教育上特別の支援を必要とする児童等に対する支援内容の検討。
(個別の教育支援計画等の作成・活用及び合理的配慮の提供を含む。) - 教育上特別の支援を必要とする児童等の状態や支援内容の評価。
- 障害による困難やそれに対する支援内容に関する判断を,専門家チームに求めるかどうかの検討。
- 特別支援教育に関する校内研修計画の企画・立案。
- 教育上特別の支援を必要とする児童等を早期に発見するための仕組み作り。
- 必要に応じて,教育上特別の支援を必要とする児童等の具体的な支援内容を検討するためのケース会議を開催。
- その他,特別支援教育の体制整備に必要な役割。
(注:番号は筆者)
「発達障害を含む障害のある幼児児童生徒に対する教育支援体制整備ガイドライン」文部科学省(2017)より引用
一つひとつ見ていきましょう。
①児童等の障害による学習上又は生活上の困難の状態及び教育的ニーズの把握
子どもの困難を一番よく把握しているのは、直接関わっている学級担任の先生です。では、学級担任だけが、その子どもの困難の状態を把握していればよいのでしょうか。
そうではありません。学校組織として、その子どもの困難の状態を把握することが求められます。つまり、「学級担任だけが把握している」という状態から「学校全体で子どもの状態を共通理解する」という段階に進める役割を、校内委員会は担います。
②教育上特別の支援を必要とする児童等に対する支援内容の検討
例えば、保護者からこのような声があったとします。
- 保護者
-
昨年度の担任の先生はちゃんと支援してくれたのに、今度の担任の先生は全然支援してくれないです。学校としてどうなっているんですか?
学級担任だけが、子どもの支援内容を決めている状態だと、このような声があがりがちです。
もちろん、子どもへの支援は、学級担任が臨機応変に行う場合もたくさんあります。しかし、例えばルビ付きの教材を用意したり、テストを別室で受けたりするようなことなど、計画的に進めていくべき支援もあります。そのような支援は、子どもの学年が上がったり、学級担任が変わったりしたときにも、継続的に行っていくものかどうかを判断する必要があります。そのような支援内容を校内委員会で検討するのです。その際、「個別の教育支援計画」に明記することが大切です。
個別の教育支援計画については、「個別の教育支援計画と個別の指導計画」を参照してください。
③教育上特別の支援を必要とする児童等の状態や支援内容の評価
校内委員会では子どもたちの状態や支援内容の評価も行います。
「評価」といえば、「学習評価」もありますが、「学習評価」に関する用語としては、「診断的評価」、「形成的評価」、「総括的評価」の3つの段階が有名です。校内委員会で行う「状態や支援内容の評価」についてもこの考え方を参考にして、評価を行うことが大切です。
④障害による困難やそれに対する支援内容に関する判断を、専門家チームに求めるかどうかの検討
学校の先生方だけでは判断に迷うケースもあります。そのような場合は、学校外部の「専門家チーム」を活用することが考えられます。
専門家チームとは、支援内容等について専門的意見を示すことを目的として、教育委員会等に設置されている組織のことです。教育関係者、心理関係者、医学関係者で構成されています。専門家チームに派遣要請を行うためには、校内委員会でその是非を検討し、要請のための資料作成等を行う必要があります。
⑤特別支援教育に関する校内研修計画の企画・立案
例えば、ある子どもに対して「合理的配慮」を検討することになった場合、そもそも「合理的配慮とは何か」ということがわからなかったら、検討のしようがありません。まず、校内の先生方が「合理的配慮とは何か」について共通理解をもつ必要があります。
校内で「合理的配慮」の研修会を開けば、多くの先生方に「合理的配慮とは何か」ということを学ぶ機会が作れます。
子どもの支援に関する専門的な知識や情報等については、校内の先生みんなが理解しているとは限りません。必要に応じて研修会を企画・立案していくことが、校内委員会の役割の一つです。
⑥教育上特別の支援を必要とする児童等を早期に発見するための仕組み作り
校内委員会で支援策を検討するまではいかなくても、「ちょっと気になる子ども」は多くいるのではないでしょうか。
例えば、校内の先生方全員で子どもの情報交換を行う場を年に数回設定するような仕組みを作っておけば、何か急なトラブルの際にもスムーズに対応できるようになります。
⑦必要に応じて、教育上特別の支援を必要とする児童等の具体的な支援内容を検討するためのケース会議を開催
校内委員会だけで子どもの具体的な支援内容を検討するのは、難しい場合もあります。そのためには、別途具体的な支援内容を検討するために「ケース会議」を開くことも必要になってきます。
校内委員会とケース会議の役割については、後述します。
⑧その他、特別支援教育の体制整備に必要な役割
例えば、保護者を対象にした特別支援教育に関する理解啓発の行事等の企画や、「交流及び共同学習」の推進に係る実施計画の検討など、学校の実情に応じて、校内委員会が特別支援教育の体制整備に必要な役割を担うとよいでしょう。
特別支援学級への学びの場の変更と校内委員会
では、校内委員会の役割を、通常学級に在籍する子どもが特別支援学級へと学びの場を変更する場合を例に具体的に見てみましょう。
まず、最初に学びの場を変更する必要性を認識するのは通常学級の担任の先生だと思います。しかし、この段階では、まだ子どもにとって、それが妥当かどうかはわかりません。
そこで、校内委員会にはかることによって、学校全体でこの子どもの状態について共通理解するという段階に進めます。
校内委員会では、もしかしたら、授業をユニバーサルデザイン化したり、合理的配慮を講じたりしていくことで、その子どもの困りごとを解決できるのではということが検討されるかもしれません。あるいは子どもや保護者の意向はどうなのか、といったことを把握することも必要です。
ちなみに、特別支援学級への入級基準は、必ずしも厳密になっていません。心理検査に基づくIQが基準になるといわれることもあります。しかし、IQの値が80だったら通常の学級、79なら特別支援学級というように機械的に決まるものではありません。
したがって、学びの場の変更にあたっては、校内委員会で、子どもの状態等や教育的ニーズ、子ども本人及び保護者の意見、専門家の意見等を総合的に検討して、判断することが必要になるのです。
このように校内委員会のプロセスを経ていくことで初めて、「この子どもは特別支援学級で学ぶことが妥当である」という合意形成が図られていきます。
ちなみに、通級による指導を開始する場合も、これと同様に、校内委員会のプロセスを経ていくことが大切です。
- 最終決定者は誰?
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子ども・保護者と市区町村教育委員会や学校間で、転学や学びの場の変更について合意形成が図られたあと、最終的には市区町村教育委員会が決定することになっています。
校内委員会とケース会議
校内委員会の判断により、教育上特別の支援を必要とする児童等の実態に対する支援内容等の検討にあたって、個別に、学級担任等関わりのある人たちでつくる小人数集団のチームによる会議(ケース会議)が必要となる場合があるとされています。
実際には校内委員会で、一人ひとりの子どもの状態を把握したり、学びの場を変更することの妥当性を検討したりすることには、労力も時間もかかります。規模の大きい学校では、ケースの数も多くなるので、さらに難しくなるでしょう。
校内委員会とケース会議という二つの会議を効果的に運用していくことで、より校内の支援体制が整っていきます。校内委員会とケース会議の違いを見てみましょう。
前述の通常学級から特別支援学級に学びの場を変更する例でいえば、まずケース会議で方向性や具体的な対応策等を検討し、学びの場を変更することが妥当だとする原案を作成することになります。
そして、その原案を基にして、校内委員会にて審議するというイメージです。
このようにケース会議と校内委員会をそれぞれの役割に沿って上手く使い分けていくと、柔軟性のある対応が可能になっていきます。
ケース会議
参加する教員は、ケースの内容に応じて決めていきます。
校内委員会
参加する教員は、各学校の実態に応じて決めていきます。
- 教育支援委員会
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校内委員会とは別に、各自治体には「教育支援委員会」というものがあります。自治体によって「就学支援委員会」など様々な名称がありますが、子どもの教育的ニーズに最も的確にこたえる指導を提供できる就学先について検討する委員会のことです。就学するときだけではなく、就学後の転学や学びの場の変更についても助言を行う機能があります。
参考
- 障害のある子供の教育支援の手引 ~子供たち一人一人の教育的ニーズを踏まえた 学びの充実に向けて~ 文部科学省 2021年
- 後藤洋平 "プロジェクト会議"成功の技法 チームづくりから意思疎通・ファシリテーション・トラブル解決まで 翔泳社 2021年
■監修・著
増田謙太郎(ますだ・けんたろう)
東京学芸大学教職大学院准教授