Point
  • 学習に集中できない子どもへの指導
  • 個々の特性に応じた指導
  • 子どもの実態に応じたコンテンツとプロセス

ここでは「学習に集中できない」という子どもに対しての、自立活動における指導の例を紹介します。

自立活動の概要については、本サイトの「自立活動」を参照してください。

子どもの様子

Aさんicon-student-A.jpg

途中で飽きちゃうんだ
タイムを計ってやれば、頑張れるかも


課題:プリント学習などに集中することが難しい
特性:競争することを好む

Bさんicon-student-B.jpg

周りの友達の様子が気になっちゃうんだ
周りがうるさいと集中できないのかも


課題:プリント学習などに集中することが難しい
特性:一人で静かな場所で遊ぶことを好む

AさんもBさんも「学習に集中できない」という課題は共通しています。しかし、この二人の子どもに対して、同じ自立活動の指導を行えばよいかというと、そうではありません。

二人は同じ課題を抱えていますが、その行動の背景や特性は異なっています。したがって、同じ課題であっても、AさんとBさんの自立活動の指導は異なると考えた方がよいでしょう。

集中するためには、いろいろな工夫があるといわれています。たとえば、音楽を聴くと集中できるという人がいます。その人には、「音楽を聴く」という方法がぴったり合っています。しかし、一方で、音楽を聴くと気が散ってしまい集中できないという人もいます。その人には、「音楽を聴く」という方法は逆効果になってしまいます。

このように、同じ方法でも、人によってぴったり合ったり、全く合わなかったりということはよくあります。子どもの指導を考える上でも、このことは重要です。どの子どもにも共通した方法で「集中できるようにする」ということを検討するのは、当たり外れがあるといえます。

では、AさんとBさんに対してどのような指導が考えられるでしょうか。下記の計算プリントを教材として用いる際の、二人の指導について考えてみましょう。

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出典:「問題データベース 小学校 算数」(東京書籍)



Aさんの場合の指導例

Aさんは、「競争することを好む」という特性があり、本人も「タイムを計ってやれば、頑張れるかも」と話しています。
したがって、Aさんがこのプリントに集中して取り組むためには、1枚のプリントを何秒でできるかタイムを計るという方法や、1分間で何問できるかやってみるといった方法が有効だと考えられます。

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これはタイムを計るという方法によって、プリントに向かう意欲を高めていることになります。
この指導を自立活動の内容6区分27項目の視点で見てみると、「心理的な安定」の(3)を中心とした指導といえます。

2 心理的な安定
(3)障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服する意欲に関すること
自分の障害の状態を理解したり,受容したりして,主体的に障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服しようとする意欲の向上を図ること

特別支援学校 教育要領・学習指導要領解説 自立活動編(平成30年3月公示) 第6章より引用

つまり、この事例では、「タイムを計れば、集中して取り組める」ということをAさん自身が理解し、「学習に集中できない」という困難を改善・克服したということです。
「タイムを計る」という方法が有効だと、Aさんが自覚できるような学習を積み重ねていくことで、Aさん自身が自分の苦手さを理解し、そのための解決方法を学んでいくことが自立活動の視点による指導であるといえます。
さらに「家で宿題をやるときもタイムを計ってやってみよう」と伝えるなど、Aさんが応用できるように指導を入れることで、般化につなげていくことができます。そのような成功体験を増やしていくと、意欲の向上が図れるようになります



Bさんの場合の指導例

Bさんの場合、「一人で静かな場所で遊ぶことを好む」という特性があり、「周りがうるさいと集中できないのかもしれません」と話していました。
したがって、Bさんの場合は、個室や図書館で取り組む、パーテーションを立ててみるなど、学習する環境を整えることが考えられます。

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これは自立活動の内容6区分27項目でいえば、主に「環境の把握」の(2)を中心とした指導になります。

4 環境の把握
(2)感覚や認知の特性についての理解と対応に関すること
障害のある幼児児童生徒一人一人の感覚や認知の特性を踏まえ,自分に入ってくる情報を適切に処理できるようにするとともに,特に自己の感覚の過敏さや認知の偏りなどの特性について理解し,適切に対応できるようにすること

特別支援学校 教育要領・学習指導要領解説 自立活動編(平成30年3月公示) 第6章より引用

この事例における指導のポイントは、Bさん自身が「自分は静かな環境であれば、集中して取り組める」ということを理解して、「学習に集中できない」という困難を改善・克服するということになります

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同じ課題のある子どもに対して、どの子どもにも共通した自立活動の指導を行うのではなく、その個人の特性や背景に応じて考えていく必要があります。その際に、自立活動の内容(6区分27項目)の視点があると、その子どもに応じた方法を考えていきやすくなります。
自立活動の6区分27項目については本サイトの「自立活動」を参照してください。

学習の内容面だけでなく方法面にも着目する

自立活動の指導においては、「この子どもの課題を解決するために、どんな教材を使ったり、どんな活動を行ったりしたらよいのだろう」と、学習の内容面について悩んでいる先生方も多いのではないでしょうか。
もちろん、子どもに応じた学習の内容面(ここでは「コンテンツ」と呼ぶことにします)を考えていくことは大事です。
しかし、同じコンテンツを用いたとしても、「どのように取り組むとよいのだろう」という学習の方法面(ここでは「プロセス」と呼ぶことにします)を子どもに応じて考えていくことも重要です。
前述のAさんとBさんの指導例でいえば、「計算プリント」はコンテンツにあたります。これは二人とも共通でした。しかし、Aさんは「タイムを計る」、Bさんは「静かな場所で取り組む」と、異なるプロセスで指導を行いました。つまり、それぞれの子どもの実態に基づいたプロセスで、指導を行っているということになります。
このように、自立活動の指導は「コンテンツ」だけではなく、「プロセス」も、子どもの実態に応じて考えていくとよいでしょう。

自立活動の指導は、まず児童生徒の実態把握を的確に行います。そして個々のプロフィールを整理し、「個別の指導計画」を作成します。その上で、自立活動の目標を達成するために実際の指導を行う際には、「コンテンツ」と「プロセス」の視点が大切です。
さらにそれらをP‐D‐C‐Aサイクルとして、常に見直しを行うことも重要です。

詳しくは、本サイトの「個別の教育支援計画と個別の指導計画」を参照してください。

■監修・著
増田謙太郎(ますだ・けんたろう)
東京学芸大学教職大学院准教授