Point
  • 通級による指導とは
  • 対象となる児童生徒
  • 通級による指導の教育課程

通級による指導とは?

通級による指導とは、小学校、中学校、高等学校などで、通常の学級での学習や生活におおむね参加でき、一部特別な指導を必要とする児童生徒に対して、各教科等の授業は通常の学級で行いつつ、障害に応じた特別の指導を「通級指導教室」といった特別の場で行う特別支援教育の形態の一つです。

通級指導教室は障害種別に分かれており、必ずしも在籍校に該当する通級指導教室があるとは限らないため、他校に設置されている通級指導教室に通うこともあります。

(参照:「自校通級・他校通級と巡回指導」)

通級による指導は、障害による学習や生活の困難の改善・克服を目的とした特別の指導(自立活動に相当する内容)が、児童生徒のニーズに応じて受けられる上に、通常の学級における授業においてもその指導の効果が発揮されることにつながると期待されています。

対象となる児童生徒

通級による指導の対象となる児童生徒は、以下の9つの障害者になります。

  1. 弱視者
  2. 難聴者
  3. 肢体不自由者
  4. 病弱者・身体虚弱者
  5. 言語障害者
  6. 情緒障害者
  7. 自閉症者
  8. 学習障害者
  9. 注意欠陥多動性障害者

なお、通級による指導の対象には、知的障害者は含まれていません

それは、通級による指導の対象者は、障害の程度が軽微であり、一部特別の指導を行うことで学校生活での適応が可能となる程度の児童生徒であるからです。

知的障害者には、生活に結びつく実際的・具体的な内容を継続して指導することが必要で、一部を特別の指導で行うといった指導形態にはなじみません。ですから、現在、知的障害者は通級による指導の対象とはなっていません。

同様の理由から、「自閉症者」では知的発達の遅れがない児童生徒が対象になり、「弱視者」や「肢体不自由者」であっても、知的障害を併せ有していないことが、通級による指導の対象者になります。

また、学習障害(LD)者や注意欠陥多動性障害(ADHD)者は、2006年に新たに通級による指導の対象者に加わりました。実際の運営では、自閉症者と合わせて「発達障害者」として指導を行っているところもあります。

ところで、児童生徒が通級による指導の対象となるかどうかに関して、具体的な判断基準はあるのでしょうか。以下は、文部科学省(2021)の「障害のある子供の教育支援の手引」から、ADHDの通級による指導を受ける程度の例示です。

参考:「障害のある子供の教育支援の手引」:文部科学省(2021)

実際に児童生徒を通級による指導の対象とするかどうかは、対象となる児童生徒の行動観察をしたり、必要な情報を収集したりして、実態を把握することから始め、通級による指導の必要性があるかどうかを校内委員会で検討します。

(詳しくは「通級の開始から終了まで」をご覧ください)

特別の教育課程の編成

通級による指導を行う場合には、一人ひとりに応じた特別の指導を、小・中学校の通常の教育課程に加えたり、一部替えたりして、特別の教育課程によることができる特例が認められています(学校教育法施行規則第140条)。

したがって、通級による指導を行う場合は、対象となる児童生徒が在籍する学校において編成された教育課程を基に、特別の教育課程を編成して指導を行います。

ちなみに教育課程の編成の主体は各学校であり、校長が責任者となって編成します。通級による指導では、特別の教育課程を編成することになるので、対象となる児童生徒が在籍している学校の校長が実態把握などを適切に行った上で、判断することになります。このことは、他校に通級する場合も同様です。
(詳しくは「自校通級・他校通級と巡回指導」をご覧ください)

通級による指導の指導時間は?

通級による指導の対象となるのは、通常の学級での学習におおむね参加でき、一部特別の指導を必要とする程度の児童生徒です。

そのため通級による指導の指導時間は年間35単位時間~280単位時間(LD、ADHDの児童生徒は年間10単位時間~280単位時間)とされています。

通級による指導では、障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服することを目的とする指導(自立活動に相当する内容)を行いますが、特に必要がある時には、障害の状態に応じて各教科の内容を取り扱うことも認められています

例えば、学習障害のある児童生徒の状態に応じて、国語の教科書の文章をゆっくり確認しながら音読したり、算数の計算の手順が示された支援ツールを使って手順通りに計算する練習をしたりすることが挙げられます。

ここで、大切なことは、通級による指導において、各教科の内容を取り扱うことは、単に各教科の学習の遅れを取り戻すための指導を行うことではないということに注意しましょう。

どのように指導時間を確保するの?

指導する単位時間数や時間帯については、学校や地域、児童生徒のニーズ、指導内容などを考慮して適切に決めていきます。

小・中学校の場合、通級による指導は、「教育課程の一部を替えて行う場合」と「教育課程に加えて行う場合」があります

※平成30年度から開始された高等学校における通級による指導の場合は、代替できない教科・科目などがあります。

通級による指導を受ける児童生徒の週時程の中での時間帯の偏りや、各学年における総授業時数を踏まえて、児童生徒の負担過重にならないように配慮することが必要です。

教育課程の一部を替えて行う場合の留意事項

通常の学級の授業の一部を抜けて、通級による指導を受けることになると、いつも同じ曜日の同じ時間帯の学習が欠けることになり、その時間帯に行っている通常の学級における学習ができなくなってしまうことが考えられます。

例えば、上図のように、道徳」の時間に通級による指導を毎週受けていると、「道徳」の学習には全く参加できなくなってしまいます。

そこで、在籍学級と通級指導教室が連携して通級日を変えるなどの配慮をすることが必要になります。特に、中学生の場合は、評価や評定に影響することが想定されるので、通級することによって、生徒自身に不利益が被らないような配慮が必要です。

教育課程に加えて行う場合の留意事項

小学生が放課後に他の学校に通級して指導を受ける場合は、児童にとっての体力的な負担とならないように配慮することが必要です。
中学生の場合には、部活との兼ね合いも考える必要があります。

■監修・著
廣瀬由美子(ひろせ・ゆみこ)
元 明星大学教育学部教授
小林倫代(こばやし・みちよ)
独立行政法人国立特別支援教育総合研究所名誉所員