Point
  • 行動観察と記録の重要性
  • 児童生徒がなぜその行動をするのかを推定する
  • 知能検査の結果も活用する

行動観察と記録

学校には、さまざまな個性や特性をもった児童生徒が在籍しています。日々、教師として児童生徒と触れ合うなかで、楽しいこと、嬉しいこと、ときにはぐっと感動することもあると思います。

一方で、授業中の児童生徒の学習面、行動面の様子、学校生活での他者とのコミュニケーションのとり方など、気になることもあるのではないかと思います。どのような対応をしたら良いのか、悩むことがあるかもしれません。

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他の児童生徒と比べて、気になる行動の「頻度が多い、程度が重い、持続性がある」と感じた場合は、行動の記録をとってみましょう。
気になる行動が数ヶ月に1回程度しか起こらない場合は、その行動が起こる要因を特定するのは難しくなりますが、もし、気になる行動が定期的に起きているのであれば、環境との不具合(ミスマッチ)が生じている可能性が高いです。行動の記録を蓄積することにより、その行動が生じている理由を推測することができます。
行動の記録をとるときには、以下のステップを意識してみましょう。

ステップ1

児童生徒が示す多くの気になる行動に対して、一度に支援を行うことは難しいです。また、同時に複数の行動への支援を行うと、それぞれの支援の効果が分かりにくくなることも予測されます。そのため、気になる行動が複数ある場合には、それぞれの行動がどのくらいの頻度で起きているのかを把握した上で、優先的に指導や支援を行う行動を絞り込みます。
時間割表は、気になる行動が生じた頻度だけでなく、そのときの時間と教科も記録しやすいため、記録表として活用しやすいです。
以下に時間割表を用いた行動記録の記入例を示しましたので参考にしてください。なお、気になる行動がすでに絞れている場合は、気になる行動が生じた時間はチェック有(✓)、生じなかった時間はチェック無、としても良いと思います。

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適切な支援につなげるための行動観察の記録は、必要な情報があることはもちろん重要ですが、記録を実施しやすくするという視点も大切です。気になる行動を記号化したり、選択肢等を設けたりして、記録にかかる負担を減らすように心がけましょう。

ステップ2

次に、「いつ」「どこで」「どのようなときに(課題・状況)」「どのような問題が起こるのか」「どのような対応をしたか」を、もう少し詳しく記録してみましょう。

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また、気になる行動が生じているときだけでなく、その行動が生じていないとき(児童生徒が適切な行動をしているとき)についても行動を観察・記録すると、適切な支援を考える上での有益な情報を集めることができます。

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このように記録すると、気になる行動が生じやすい課題や状況と、生じにくい課題や状況を比較して考えることができます。

参考:「発達障害を含む障害のある幼児児童生徒に対する教育支援体制整備ガイドライン」文部科学省(2017

行動観察のアセスメント手法「ABC分析」

児童生徒がその行動をする理由を推定するためのアセスメントの一つに、応用行動分析学(Applied Behavior Analysis: ABA)に基づいたABC分析があります。児童生徒の「行動(Behavior)」だけでなく、行動が生じる前にどのようなきっかけや状況があるか(先行事象:Antecedent)と、行動をした後にどのような周囲の反応や状況があるか(結果事象:Consequence)についても記録します。ABCの3つに分けて整理すると、適切な行動ができていない理由を推測することができます。

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例えば、授業中におしゃべりをしてしまう児童がいるとします。
「なぜおしゃべりをするのか」というおしゃべりをする「目的(機能)」を推定するために、ABCの3つに分けて行動の観察・記録を行いました。
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行動を記録する際は、同じ行動や内容については、記号化したり、チェック(✓)できるようにしたりして、記録にかかる負担を減らしましょう。ただし、児童生徒がどのような言葉を発しているのかは、気になる行動の目的(機能)を推定する上で重要な情報になるため、できるだけ記録しましょう。

また、気になる行動が起こりにくい状況の情報も収集しましょう。

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このように、気になる行動の、先行事象(A)、行動(B)、結果事象(C)について、複数回観察や記録をし、その行動の背景にある目的(機能)を推定します。
このとき、関係者(通常学級の担任の先生等)へのインタビューを実施することも有効です。

気になる行動が定期的に起こるということは、その行動は子どもにとって何らかの目的(機能)を果たし、その行動に伴う結果によって、その行動が繰り返し起こりやすくなっていると考えられます。

ある行動によって何を得ているか、あるいは何から逃れているかは、人によって異なります。児童生徒が気になる行動によって果たしていた目的(機能)を、適切な行動によって果たすことができれば、その気になる行動をしなくて済むようになります。

上記の例の場合には、「担任の先生と関わること」が目的(機能)であると推定できます。
このように目的(機能)が推定できたら、その情報に基づいた支援を考えます。予防的対応、代替行動に対する支援、事後的対応について、検討していきます。
学級の児童生徒たちの好きなことを教師がたくさん知っていると、適切な行動をした後の結果を児童生徒にとってより良いものにすることができ、適切な行動が再度起こりやすい環境も設定しやすくなります。また、児童生徒たちと一緒に過ごしていく中で、児童生徒が好きなことを増やしていくといったことも良いでしょう。進んで適切な行動をする環境を教室内、学校内に設定していくことは、児童生徒にとって過ごしやすい学級・学校づくりにつながると思います。

知能検査の結果も活用

指導にあたる児童生徒の知的障害の有無、また知的能力の発達水準によって、指導目標(授業のねらい)、有効な手だて、評価方法等は変わります。そのため、指導にあたる児童生徒の知的能力の発達水準や認知特性をしっかりと把握することは、児童生徒を支援する上でとても重要です。もし、指導にあたっている児童生徒が知能検査を受けている場合には、検査者(専門家等)から検査結果の説明を受けたり、検査結果の報告書を読んだりして、自分の指導に活かすようにしましょう。
児童生徒の知的能力の発達水準を推定するためのアセスメントとして、知能検査(例えば、WISC-Ⅳ、WISC-Ⅴ、田中ビネー知能検査Ⅴ)があります。
ABC分析などの行動面のアセスメントとあわせて活用することで、児童生徒の気になる行動や困難を示す背景をより的確に理解することができます。

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日本文化科学社様からの許可を得て転載


知能検査(WISC-Ⅳ)日本文化科学社

知能検査(WISC-Ⅳなど)の詳しい内容は、日本文化科学社のサイトや下記の参考文献を参考にしてください。

 ○日本文化科学社

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個別の教育支援計画と個別の指導計画

参考文献

  • 大久保賢一 3ステップで行動問題を解決するハンドブック 小・中学校で役立つ応用行動分析学 学研教育みらい 2021
  • 上野一彦・松田修・小林玄・木下智子 日本版WISC-Ⅳによる発達障害のアセスメント-代表的な指標パターンの解釈と事例紹介 日本文化科学社 2015

■監修・著

岩本 佳世(いわもと・かよ)
愛知教育大学 講師